症状

透析患者さんの“不眠”や“イライラ感”は、なぜ起こるの?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

 透析治療を受けている患者さんの中に、「不眠」「イライラ」の症状に悩まされている人が少なくありません。どちらの症状も日常生活においてトラブルの原因となりやすく、生活の質を大きく下げる結果になりかねません。ときには不眠やイライラを原因として、透析中にトラブルを起こしてしまう患者さんも見受けられます。

 しかし、不眠やイライラの症状が出ることがわかっているのであれば、事前に対処もしやすいのではないでしょうか。そのためにも、なぜ透析患者さんが不眠やイライラを感じることがあるのか、どういった対処法が有効なのかについて解説します。

透析患者さんの不眠の原因

不眠の原因となる慢性腎臓病の合併症

睡眠時無呼吸症候群

 睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠時に呼吸が止まってしまう病気です。厳密に言えば「10秒以上の気流停止」「1時間あたり5回以上、または一晩で30回以上」ある場合、睡眠時無呼吸であると言います。慢性腎臓病の合併症である糖尿病や高血圧、心臓病との関連が強いため、透析患者さんにも睡眠時無呼吸症候群の症状が多く見られています。

かゆみ

 透析患者さんの実に60~80%の方が経験する「かゆみ」も、不眠症の原因となります。透析患者さんは皮膚の乾燥や尿毒症物質の増加、免疫系の変化などを原因としてかゆみの症状を引き起こします。夜眠るときにかゆみの症状を自覚していれば、ぐっすり眠ることは難しくなります。

▼▼▼かゆみの症状については、こちらの記事もご参照ください。▼▼▼

透析患者さんの皮膚のかゆみ。なぜ起きるの?

むずむず脚症候群

 むずむず脚症候群は、身体の末端の痛みや不快感によって特徴づけられる、慢性的な病態のことを言います。「レストレスレッグス症候群」「下肢静止不能症候群」とも言います。ドーパミン放出の機能障害や鉄の不足などを原因としていると考えられており、透析患者さんの約20%に見られる症状です。睡眠前や睡眠中にも脚を中心とした異常・不快な症状を呈し、不眠の原因となります。

合併症による生命予後

 これらの合併症のうち、透析患者さんの生命予後に関係するのは「睡眠時無呼吸症候群」です。重症の睡眠時無呼吸症候群では、致死的な心疾患イベントの発生リスクが約3倍に跳ね上がると言われています。

透析治療開始による精神状態の変化

 透析治療を開始した患者さんの多くは、精神状態が大きく変化します。

透析治療開始前の精神状態

 腎機能が大きく低下してしまった患者さんは、医師から「透析治療が必要」と告げられます。透析治療は「腎移植」を実行しない限り半永久的に継続が必要なものであり、その失望感落胆は決して小さなものではありません。

 心理学的に見ると、透析が必要になったことを告げられた時の精神状態は、親しい家族や知人が亡くなったときや、大切な物品や地位を喪失したときの状態に似ているとされています。これを「対象喪失」と言います。既に自分の腎臓が、健康的に生きていくのに十分な機能を果たしていないことと、それゆえに半永久的に透析治療を受け続けなければならないという状況が、大きな落胆をもたらすのです。

透析治療開始後の精神状態

 透析治療を開始してからも、精神状態が悪い状態が継続してしまいます。透析治療を受けたくない、継続したくないとしても、透析治療を受けないと健康状態が著しく悪化してしまいます。結果、「受けたくないのに、受けなければならない」という状況になり、これが患者さんにとってイライラの原因となってしまいます。

 一般的に、透析治療を受け続けると透析治療による精神状態は緩和されていくとされとています。しかし、全てのイライラや不安を解消できるわけではなく、個人差はありますが透析開始から数年は厳しい状況が続くとされています。仮に透析治療に慣れていくとしても、透析治療を受ける前の状態と比較すれば「透析治療を受けている」という大きな変化はどうしても無視できるものではありません。

診察前に把握しておきたい「睡眠の状況」とは?

どんな感じで眠れていないのか?

 一言に「眠れない」と言っても、さまざまな状況が考えられます。不眠について医師に相談するにあたっては、単純に眠れないと相談するのではなく、どのような感じに眠れないでいるのかを把握しておくことをおすすめします。

 具体的には、以下のような内容を把握しておくと良いでしょう。ここに挙げた以外にも不眠の内容は考えられますので、できる限り具体的に説明できるようにしておきましょう。

  • 夜中に目を覚ましてしまう
  • なかなか寝付けない
  • 眠れていても熟睡した気がしない
  • 早朝に目を覚ます
  • 日中にひどく眠い

不眠の原因となっている自覚症状

不眠に悩まされている人の中には、明確にその原因を自覚しているケースもあります。例えば以下のようなケースが考えられますが、医師に相談する際には自覚症状についても具体的に説明できることが望ましいです。

  • 体がかゆい
  • 体が痛い
  • 体がむずむずする
  • トイレに行く回数が多い
  • 体に違和感を感じる

睡眠時の状況

 医師に相談する時には、睡眠時の状況についても把握しておくと良いです。例えば「いびきがひどい」「呼吸が止まる時がある」といった内容です。自分が眠っている時の状況なので本人では自覚できないケースが多いのですが、同居しているご家族にチェックしてもらい、把握してください。

精神状態について

 不眠に悩んでいる人は、精神状態が変化している可能性があります。例えば「落ち込んでいる時間が多い」「ストレスが溜まって、イライラしている」といった状態であれば、医師に伝えておきましょう。

医薬品の服用状況

 一部の医薬品には、不眠の副作用が生じるものがあります。服用している医薬品との相性の問題もありますので、不眠について相談する際にはお薬手帳を持参する等して服用状況を正確に伝えてください。場合によっては服用するお薬の種類を変える必要があります。

不眠改善のためにできること

透析治療中に眠らないための用意をする

 透析治療を受けられている透析患者さんの中には、透析中に眠っている人が見受けられます。確かに数時間という時間を過ごすにあたって眠ってしまうことは仕方がないことかもしれませんが、昼間の睡眠は夜間の睡眠を阻害してしまう可能性があります。夜眠れないから昼寝する、という悪循環を引き起こし、余計に不眠症に悩むことになります。

 とは言え、何もせず眠くなる時間をただ耐えるというのも難しい話です。なので、数時間に及ぶ透析の時間を、暇にならずに済む方法を用意しておくことをおすすめします。例えばDVD鑑賞であれば、映画1~2本あれば透析時間をカバーできます。他にも読書であれば長い時間を暇なく過ごせるのではないでしょうか。とにかく数時間の動きにくい時間をカバーできる娯楽を用意しておけば、眠ってしまうことを避けられるはずです。

 また、透析中の時間つぶしの手段を用意することはイライラ対策にもなります。病院での透析中にイライラしてしまうと他の患者さんや医療スタッフとの人間関係にも悪影響を及ぼします。気を紛らわせる手段を用意することで、透析中にストレスを溜めるリスクを抑えられます。

運動の習慣を身に着ける

 昼間に適度な運動をする習慣を身につけることは、不眠対策として非常に有効です。透析患者さんは運動能力が低下しやすいことも知られており、運動の習慣を身につけることはその対策としても有意義なものとなります。ただし、習慣的に運動を行う場合には担当医に相談してください。

寝室の環境を整える

 透析患者さんの不眠対策としては、眠る時の環境を整えることも重要なポイントになります。例えば「外の光を十分に遮るようにカーテンを交換する」「エアコンを利用して快適に眠れる室温にする」といった対策が有効です。光や音、温度などの環境的な要因で、快適な睡眠を妨げているものを探し出して対処してください。

寝る前のカフェイン等を制限する

 眠る前に特定の成分を摂取すると、快適な睡眠を阻害する可能性があります。具体的には「カフェイン」「ニコチン」「アルコール」といった興奮作用のある成分が中心となります。

人によっては「寝酒」をしている人もいると思います。確かに寝酒は入眠を促す方法としては適しているかもしれませんが、アルコールの分解と利尿作用によって夜中に目を覚ますリスクを高めてしまいます。また、寝酒を習慣化させると飲酒量が増加し、アルコール依存症の温床になる可能性も考えられます。

寝る前の水分を制限する

 カフェインやアルコールについて触れましたが、それ以外にも単純な「水分」も不眠症の原因となる可能性があります。寝る前に過剰な飲水をしてしまうと、夜中にトイレのために起きてしまうリスクを高めてしまいます。

 もともと、透析治療を受けている患者さんは水分量に制限が設けられています。ただし、1日の水分量自体に問題が無くても、就寝前の水分摂取量が多いと不眠の原因となる可能性が考えられます。就寝前の飲水量には十分注意してください。

透析の効率を上げる

 透析によって取り除かれる毒素が、不眠の原因になっている可能性が考えられます。厳密にはその毒素が体から十分に取り除かれていないことが原因として考えられるため、透析の効率を上げることで毒素を十分に取り除いて不眠対策とします。

 透析の効率を上げる方法としては、透析回数や1回あたりの透析時間を増やすことが挙げられます。ただし、特に1回あたりの透析時間を長くすると透析中に眠ってしまうリスクを高めることになりまs。DVD鑑賞や読書など、透析中の睡眠を回避する対処法を十分に準備しておく必要があります。

薬を利用する

 どうしても不眠を解消できなければ、医師から睡眠薬や安定剤を処方して貰う必要があります。もちろん薬に頼らず自然な睡眠を確保するほうが良いのですが、不眠に悩まされるよりは薬を利用して眠れるほうが良いでしょう。

 ただし、安易に睡眠薬を処方するものではないという意見があります。透析患者さんの不眠の原因疾患の中には生命予後に影響するものが含まれています。なので安易に睡眠薬に頼るのではなく、その原因疾患の発見および治療に注力すべきであるとされています。

不眠やイライラは何らかの病気のサインかも?

 不眠やイライラには、何らかの病気や精神状態の異常を原因としている可能性があります。それは腎不全や透析治療を原因としているだけではなく、糖尿病や高血圧、うつ病などの合併症やその他の疾患、医薬品の副作用という可能性もあります。例えば不眠の原因と考えられるものとしては以下の内容が挙げられます。

身体疾患

  • 慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患
  • 糖尿病や高血圧などの生活習慣病
  • 脳腫瘍
  • 甲状腺などのホルモン異常
  • アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患
  • 前立腺肥大症などによる頻尿

精神疾患

  • うつ病
  • 統合失調症
  • 不安障害
  • 躁うつ病

薬の副作用

  • ステロイド薬
  • 抗うつ薬
  • 降圧剤
  • 甲状腺治療薬
  • 喘息治療薬
  • パーキンソン病治療薬

 このように、さまざまな病気や副作用の影響が不眠の可能性として考えられます。透析患者さんだからと、透析治療や腎不全が不眠やイライラの原因であるというわけではありません。基礎疾患が明確であればそれを治療することで不眠やイライラを解消できる可能性がありますので、早めに医師に相談してください。

不眠とイライラを解消して生活の質を改善

 透析治療を受けておられる患者さんは、透析治療そのものや数々の自覚症状によって不眠やイライラの症状に悩まされることになります。不眠やイライラを放置してしまえば、ほぼ確実に生活の質を落とす結果になってしまいます。

 患者さんごとに不眠とイライラの原因は異なります。そのため、有効な対処法も患者さんごとに大きく異なるということになります。まずは不眠やイライラについて担当医に相談してみてください。患者さんが抱えても解決する見込みは薄く、生活の質を取り戻すためには正直に悩みを打ち明けて解決の糸口としてください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。