人生において「足のつり」を体験したことがないと言う人は、ほとんどいないでしょう。長時間に渡って痛みを感じることは少ないとは言え、できれば足のつりなんて経験したいとは思わないはずです。
そんな足のつりを、透析治療において経験する頻度が高いとしたらどう思いますか?命に関わる可能性は極めて少ないとは言え、不快な症状が頻繁に起こるとしたら、その予防策を前もって理解して実践したくなるでしょう。そのためにも、なぜ透析治療中に足がつりやすいのかを理解する必要があります。
そこで、透析中に足がつる原因と、でき得る予防策について解説します。これから透析治療を開始する予定の人や、既に透析により足のつりを経験している人は是非とも参考にしてください。
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「足がつる」とは、どういうこと?
人工透析による足のつりについて説明する前に、そもそも「足がつる」とはどういった事態なのかについて簡単に説明しておきます。
足のつりは別名「こむら返り」とも呼ばれており、ふくらはぎに激しい痛みが発生します。医学的に言うと「有痛性筋痙攣」や「腓腹筋痙攣」、「筋クランプ」と言う症状であり、スポーツの最中や寝ているときに症状が発生するケースが多く見られます。
こむら返りは、攣縮(れんしゅく、痙攣性の収縮)を示す有痛性の症状です。足がつると筋は固く収縮しており、局所の筋が硬く膨隆しています。激しい運動の後や睡眠中に多く見られる症状であり、特に睡眠中は目が覚めてしまうほどの激痛を伴うことが多いです。完全に目が覚めなくても足がつったときに十分な対処ができないため、寝不足や起床時の筋肉痛といった悪影響を及ぼすことが多いです。
透析中に足がつる原因
透析中に足がつることはよく見られる症状ではあるのですが、詳細な原因については未だ解明しているわけではありません。しかし、主に以下の要因が透析中の足のつりの原因であると考えられています。
血圧の低下
透析により足がつる原因として第一に考えられるのは「血圧の低下」です。人工透析では尿により排出できなくなった身体の余分な水分を人工的に取り除きます。標準的な透析は1回あたり4時間で完了しますので、言い換えればわずか4時間の間に大量の水分を取り除くことになります。
循環する血液量が減少することにより血圧が低下し、筋肉への血流も悪化します。透析中に足がつる原因として、この血液量の減少が筋肉の痙攣を誘発しているものと考えられています。血圧が大きく変動していない場合でも、累計の除水量が増加するにつれて血流量が減少することが原因として考えられます。
ドライウェイトの設定が間違っている
第二に考えられる原因は、ドライウェイトの設定が間違っていることです。ドライウェイトとは透析において除水量の基準となる重さであり、透析時の体重との乖離によって除水量も変動します。
ドライウェイトには適正な設定体重が存在します。仮にその設定重量が適正なドライウェイトよりも低い重量であった場合、透析による除水量も多くなります。除水量が適正でないドライウェイトを放置していれば、血流量が急激に低下して足のつりを起こしやすくなってしまいます。
透析間に体重が大きく増加している
ドライウェイトが適正な数値に近いとしても、透析と透析の間に体重が急激に増加してしまえば足のつりを起こしやすくなります。前述の通り透析時の除水量の基準はドライウェイトであり、仮にこの数値を固定する場合は透析開始時の体重の大小によって除水量も変動します。
透析を完了してから次の透析のタイミングまでに体重が急激に増加した場合、同じドライウェイトでは除水量が増加した体重の分だけ多くなります。血流量が急激に減少して低血圧を起こしたり、場合によっては脱水症状を引き起こす可能性も考えられます。
カルニチンの不足
透析患者さんの足のつりの原因の一つとして「カルニチン」という栄養が不足していることが考えられます。カルニチンは筋肉のエネルギー源である脂肪酸を燃焼する際に重要な役割を担っている栄養であり、主に腎臓と肝臓において合成されています。
そんなカルニチンが体内で不足してしまうと、筋細胞におけるエネルギー代謝が障害を受けてしまいます。結果、エネルギーが十分に作られず、有害な物質が体内に増加してしまいます。これが、カルニチン不足による足のつりの原因であるとされています。
通常、体内のカルニチンは約25%が体内で合成されていますが、残りの約75%は食物から摂取することになります。カルニチンは肉類(特に肉の赤身)に多く含まれており、野菜類にはあまり含まれていません。透析患者さんは肉類の摂取制限を余儀なくなれているため、カルニチンが不足しがちです。
その他の原因
透析中に足がつる原因として、上記で挙げた以外にも以下のような原因が考えられます。
- 低ナトリウム血症
- 低カルシウム血症
- 低マグネシウム血症
- 透析液のナトリウム濃度の問題
- 血清カルシウムの低下
- 低カリウム血症
透析中に足がつらないための対処法
透析間の体重増加を避ける
透析日と透析日の間で体重が大きく増加すると透析時の除水量が増加します。急激な血流量の低下は低血圧を引き起こし、足がつる可能性を高めることになります。理想としては、透析間の体重増加をドライウェイトの5%以内に留めてください。
ドライウェイトの設定を見直す
患者さんによっては、ドライウェイトが適正な設定になっていない可能性も考えられます。低く設定しすぎている場合、それだけ透析中の除水量も増加します。担当医と相談して、ドライウェイトを現状に見合った数値に見直してください。
L-カルニチンによるカルニチンの補給
体内のカルニチンの不足が、足がつりやすくなる原因の一つであると説明しました。しかし腎機能が低下し、食事制限により肉類の摂取が不十分になる透析患者さんは、通常の方法ではカルニチンを十分量確保することが極めて難しいと言わざるを得ません。そこで「L-カルニチン」によって、不足しているカルニチンを補うという方法があります。
漢方薬「芍薬甘草湯」の処方
人工透析による足のつりに対しては「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」が処方されることがあります。漢方薬の一種であり、筋肉の急激な緊張を緩めて痛みを和らげる効果が期待できます。また、筋肉の痙攣に伴う腰痛や腹痛などにも効き目があります。透析前に内服して予防する方法だけでなく、足がつったときの対症療法としても有効であるとされています。
透析以外にも足のつりを起こす病気に注意
今回、透析治療を受けていることで足がつりやすい原因とその対処法について説明しています。しかし、足がつりやすいのは人工透析だけが原因ではありません。もし、透析中や透析を受けた日の夜以外にも足がつりやすい場合、何らかの病気を患っている可能性が否定できません。
足がつりやすくなる病気
- 脳梗塞
- アジソン病
- 血管炎
- 閉塞性動脈硬化症
- 下肢静脈瘤
- 肝硬変
- 糖尿病
- 甲状腺機能低下症
- 副甲状腺機能低下症
- 関節炎
- 脊柱管狭窄症
- 椎間板ヘルニア
- 筋ジストロフィー症
- 熱中症
- 脱水症状
- 薬(抗がん剤や降圧剤など)の副作用
透析で足がつる人は対処を
透析中に足がつると恥ずかしくて相談せず我慢する人も珍しくありません。しかし有効な対処法が存在している以上、スタッフに相談して予防と対処に努めることが望まれます。
患者さんによって有効な対処法は異なります。また、人工透析が原因ではない足のつりである可能性も否定できません。まずは担当医やスタッフに相談して、少しでも快適な透析の時間を確保してください。