基礎知識

透析開始時期はいつから?透析治療を始める前に知っておきたい真実!

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透析を開始する時期はいつから?

 わが国の慢性腎臓病の患者さんの数は、1,330万人いるとされています。8人に1人は、慢性腎臓病を患っており、生活習慣病の増加とともに慢性腎臓病の患者さんも年々増加しています。腎臓の機能低下を早期に発見し、生活習慣の改善や適切な治療を開始することがとても大切です。しかし、腎臓は“沈黙の臓器”といわれており、腎臓の機能が低下していてもかなり進行した段階になるまでは、ほとんどの人が何も自覚症状を感じていません。気づいた時には、透析をしないといけないという方もいます。
「透析」という言葉を耳にしたことがあっても、透析とは何なのかイメージできない方も多いのではないでしょうか?
 今回は、透析はいつの時期から開始するのかについて、ご説明していきます。

透析はいつの時期から開始するの?

 慢性腎不全は、腎臓の働きが徐々に衰えた状態です。病気が進行し薬では症状(体重減少、浮腫や肺水腫、嘔吐や下痢など)や血液検査値(貧血、電解質、アシドーシス、骨代謝など)がコントロールできなくなったとき、または日常生活を送るのが困難になる場合に透析療法が必要になります。

臨床症状

適切な治療にもかかわらず、尿毒症症状が出始めた場合には、早急に透析を開始する必要があります。

  • 胸の苦しさ、呼吸の苦しさ
  • 脈拍が不規則、動悸
  • 尿量の有無にかかわらない浮腫(むくみ)
  • 尿量の減少
  • 高血圧の悪化
  • 吐気、嘔吐、食欲不振、下痢
  • 強い持続する疲労感(貧血が進む)
  • 出血しやすく、止血しにくい
  • イライラ、不眠
  • 視力の低下など

上記のような臨床症状は、透析開始を考慮するのに最も重要で検査値よりも重視されます。

腎機能検査値

 eGFR(推定糸球体濾過量)は客観的な目安で、臨床症状の出現を予測できます。血液検査で血清クレアチニン値が上昇し、軽い貧血を認めるのは、eGFR:59~30ml/分/1.73㎡の慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease)ステージG3で、この時期には夜間尿を認めますが他の自覚症状はありません。eGFR:29~15 ml/分/1.73㎡のCKDステージG4では、さまざまな尿毒症の症状が徐々に出現しはじめます。透析が必要となるのはeGFR:15 ml/分/1.73㎡未満のCKDステージG5です。
<慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease)病期>

https://www.icy.or.jp/harada-hospital/outpatient/special/ckd/
※eGFR値(推定糸球体濾過量)…血清クレアチニン値と年齢・性別を用いて算出し、腎機能の指標として使用しています。【NPO法人 腎不全サポート協会 腎不全とその治療法より引用】

尿毒症の症状 ・尿毒症の中で一刻も早い透析が必要な症状
意識障害、精神障害、けいれん、肺水腫、心不全、心膜炎
・その他の尿毒症症状
網膜症、口臭、重篤な高血圧、息切れ、吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、息切れ、むくみ、末梢神経障害、貧血、出血傾向

日常生活の障害度

 ひどいむくみや栄養状態の悪化などによって日常生活に支障が出る場合には、ほかの症状が軽くても透析が開始されます。

透析導入基準

 透析導入の客観的な判断を可能にするために、慢性透析療法が公費負担で実施されるに当たり、1972年に「透析導入基準」(厚生省[当時]透析療法基準委員会)がつくられました。その後、1991年に基準の見直しが行われ、現在もこの基準に則って導入時期がきめられています臨床症状、腎機能検査値、日常生活の障害度を点数化し60点以上となった時に透析導入としています。(表1)

表1:慢性腎不全透析導入基準(1991年厚生科学研究班)

A.臨床症状

 

1.体液貯留(全身浮腫、高度の低たんぱく血症、肺水腫)

2.体液異常(管理不能の電解質・酸塩基平衡異常)

3.消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、下痢など)

4.循環器症状(重篤な高血圧、心不全、心包炎)

5.神経症状(中枢・末梢神経障害、精神障害)

6.血液異常(高度の貧血症状、出血傾向9

7.視力障害(尿毒症性網膜症、糖尿病性網膜症)

これら1~7の小項目のうち

・3個以上:高度(30点)

・2個:中等度(20点)

・1個:軽度(10点)

B.腎機能

 

血清クレアチニン(㎎/dL) (Ccr)

 8以上(10mL/分未満)     30点

 5~8未満(10~20mL/分未満) 20点

 3~5未満(20~30mL/分未満) 10点

C.日常生活障害度

 

尿毒症症状のため起床ができない:高度(30点)

日常生活が著しく制限される:中等度(20点)

通勤、通学あるいは家庭内労働が困難:軽度(10点)

A(臨床症状)+B(腎機能)+C(日常生活):60点を透析導入とする

10点を加算:年少者(10歳未満)、高齢者(65歳以上)、全身性血管合併症のあるもの

糖尿病

・心臓や脳、血管の合併症が多い。
・むくみや溢水症状(体内の水分が過剰な状態)を生じやすい。
・糖尿病性網膜症が悪化しやすい。
・胃腸障害や起立性低血圧を生じやすい。
上記のリスクが高く、少量の水分過剰でも具合が悪くなりやすいため、比較的高めのeGFRで透析を始める必要があります。

高齢者

・心機能が悪い、筋肉量が少ない、脳動脈硬化症を合併する場合が多い。
・短期間の入院でも、下肢の筋力が低下しやすいため、歩行障害や寝たきりになりやすく、
認知症も進みやすい。
これらの特徴から高齢者では、病状が進行してから透析を始めると日常生活に支障が残り、もとの生活に戻ることが困難となる場合が多いので、若い人より早めの透析導入が望まれます。

小児

・腎機能はeGFRではなく、クレアチニンクリアランスを指標にする。
・ネフローゼ症候群では溢水症状を生じやすい。
・成長障害、栄養障害をさけるため、早めに透析を開始する。
小児では、成長分、体重当たりの熱量やタンパク質の必要量が多いため、腹膜透析が第一選択となります。できれば早期の腎移植が望まれます。

慢性腎臓病ステージG4と診断されたら

 慢性腎不全の原因となる病気には、いろいろな種類があります。そして、病気の進行度合いも一人一人違ってくるため、透析療法が開始される時期はそれぞれ異なります。しかし、ステージG4と診断されたら透析について考えていかなければなりません。
 自分の腎臓で生命の維持が難しくなってきた場合には、血液透析、腹膜透析または腎移植が必要となります。日本では腎移植を受けることが一般的には難しいため、血液透析または腹膜透析が選択されることになります。これらの療法では、これまでの生活様式を変えなければならないので周囲の人々の協力を得て、生活様式の組み換えが必要となります。

円滑な透析生活のための主なポイントとは

  • 穿刺しやすいバキューラアクセス(シャント)が準備されていること
  • 血液透析または腹膜透析の“仕組み”について大まかな理解がなされていること
  • “腎臓食または透析食”に慣れ、家庭で料理できること
  • 退院後、通院の手段や場合によっては介助者を考えておくこと
  • 医療費の支払いについて知識を得ていること
  • 前向きの姿勢ですべてに臨み、できることは自分で行うこと
  • いくつかの大切な検査値について、その意味と透析者としての正しい範囲を知っておくこと

人工透析ってなに?

 人工透析(血液透析)は、バスキュラーアクセス(シャント)から毎分200㎖の血液を体外に取り出し(脱血)、人工腎臓(透析器:ダイアライザー)で尿毒素や過剰な水分を除去し、必要な物質を補充し、また体内へ戻す(返血)治療です。治療回数は週3回で、1回の治療時間は4時間が一般的です、週当たりの総治療時間は、治療の経過や合併症予防に密接な関係があります。ですから、多い治療回数、長い治療時間は面倒で苦痛だと思いますが、可能な限り十分な透析治療時間を確保し、元気で長生きしましょう。しっかり食事を摂り、十分な透析治療を受けている方は合併症も少なく、より長生きすることが多くの研究から示されています。

血液透析の特徴とは?

 透析療法は、血液透析と腹膜透析の2つに大別されます。日本ではほとんどの方が血液透析を選択しています血液透析、腹膜透析にはそれぞれ特徴があり、より自分のライフスタイルにあった治療法を医師と相談し、選択してください。

血液透析と腹膜透析の人の割合は?

 2015年12月末現在で約32万人の透析患者さんがいます。そのほとんどの方が血液透析を受けています。血液透析の患者さんのほとんどの方が昼間に施設に通院し治療を行っています。
 血液透析と腹膜透析の最大の違いは、血液透析では医療者(医師、看護師、臨床工学士)が治療を行うのに対して、腹膜透析では患者さん自身(または家族や介護者)が治療の主体になることです。血液透析では週3回治療のために透析施設に通院します。現在ではほんのわずかの方しか行っていませんが、自宅に必要な機器を設置し、患者さん自身や介護者により血液透析を行う在宅透析があります。
 血液透析は、本来腎臓が24時間休まず行っている働きを週3回行い、1回当たり4時間の治療で代替するのですから、残念ながら完全な治療ではなく、透析以外の自己管理が必須になります。食事、水分摂取制限が主なものですが、患者さんの努力も必要です。
 血液透析では、短時間に体内に貯留した体液や老廃物を除去しなければなりません。それによって体液量や体液の組成が急激に変化するために、場合によっては透析時間中に血圧低下や手足のしびれ、つれなどの症状をきたすことがあります。このために、透析時間を延長したり、特殊な透析法を行う場合や薬物療法が必要となることがあります。

血液透析の準備とは?

 血液透析を行うには、1分間に200㎖程度の血液を持続的に取り出す必要があります。しかし、皮下の静脈にそのまま穿刺しても透析に必要な血液量を得ることはできません。内シャントは、静脈と動脈をつないで静脈に多くの血流が流れるようにしたものです。そうすることによって静脈を穿刺して透析を行うことができます。透析を受ける患者さんはみなこの手術を受ける必要があります。

シャントの作成時期

 血液透析患者さんのバスキュラーアクセスとして最も広く使用されています。わが国では、血液透析患者さんのバスキュラーアクセスとしては自己血管による内シャントが9割を占めています。
内シャントは、作製してから穿刺可能になるまでに最低でも2週間が必要です。余裕をもって、透析を開始する2~3カ月前に作成しておくことが望ましいといえます。

シャント造設手術の入院期間は?

 施設にもよりますが、1泊2日の入院でシャントの作製をおこないます。内シャント造設手術は、局所麻酔で行います。手術にて皮膚の下で動脈(通常は手首付近の橈骨動脈)と静脈(橈側皮静脈)を吻合(縫い合わせ)し作製します。

https://www.kango-roo.com/sn/k/view/4543
動脈と静脈をつなぎ合わせることで、血流の豊富な動脈の血液が静脈内に流れ込み、静脈が太くなり、十分な血液流量が得られます。静脈が太くなるのに1~2週間必要となります。自己血管による内シャントは血液透析患者さんにとって最も理想的なバスキュラーアクセスです。

血液透析が必要となった時はどうなるの?

 血液透析が必要となった時は、入院して透析を開始します。シャントを作製している場合には、シャントから血液透析を行います。急に血液透析が必要となった場合には、首にある太い静脈にカテーテルを留置し、そこから血液透析を行います。

透析時間

 透析開始直後は、3時間透析から開始します。体調や血圧の変動を見ながら4時間透析になります。

透析導入の入院期間

 施設にもよりますが約1カ月の入院のことが多いようです。入院中、下記のようなことを行います。
・シャント造設(シャントがない人)
・体重の調整
・降圧剤など薬剤の調整
・栄養指導
・日常生活についての指導
・身体障碍者手帳の申請
・退院後の透析施設の決定

透析施設を選ぶ際のポイント

  • 透析導入を行った病院の主治医や透析導入前に診てもらっていた医師に相談する
  • 通院が便利か
  • 透析を行う時間や曜日がライフスタイルに合うか

 透析が必要と医師から言われても分からないことが多いために不安な気持ちになったり、自覚症状がないと受け入れられなかったりする方も多いのではないかと思います。不安なことや分からないことは是非、医師や看護師に相談してみましょう。

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