症状

透析患者さんの皮膚のかゆみ。なぜ起きるの?

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 透析患者さんの合併症の一つに“かゆみ”があります。透析導入前にかゆみのある人は、10~20%います。透析患者さんでは、60%~80%の方がかゆみに悩まされた経験があるといわれています。強いかゆみは、日常生活に支障をきたし、睡眠の妨げとなることもあります。
 今回は、透析患者さんの悩みの1つのかゆみについてご説明していきます。

かゆみはなぜ起きるのでしょうか?

かゆみが起きる原因

 皮膚掻痒感(かゆみ)とは、湿疹などはみられないのにかゆみだけを感じる病態の事をいいます。かゆみを感じる場所は、皮膚の表面に点在している痛点と一致しており、強い刺激では痛みを、弱い刺激ではかゆみとして伝えるとされています。そのため、かゆい時に掻いたり、叩いたりするとかゆみが和らぐのは、痛みとして伝わるからです。このかゆみを感じる場所から神経線維(C繊維)にかゆみの信号を伝える物質の代表がヒスタミンです。これらのような伝達経路のどこかに異常があればかゆみが起こってくることになります。つまりかゆみの原因は、
・皮膚の異常
・かゆみを伝えるさまざまな物質の異常
・神経の異常
に大きく分類されます。

 

http://www.remitch.jp/report/pdf/remitch_times_vol3.pdf

透析患者さんの皮膚の特徴

 透析患者さんは、皮膚の乾燥が強い、発汗減少、色素沈着、爪病変、脱毛、毛包炎などのさまざまな皮膚症状を呈しています。かゆみは、多くの透析患者さんが悩まされる症状です。透析技術の進歩に伴い、皮膚症状を訴える患者さんは減っていますが、それでも60~80%の患者さんはかゆみを訴え、40%の方は強いかゆみに悩まされています。強いかゆみは、睡眠障害やうつ状態を招き、透析患者さんの生命予後に影響を与えることが知られています。

透析患者さんのかゆみの原因とは?

 透析患者さんにおけるかゆみの原因は、十分に解明されていません。慢性腎不全の進行や透析治療によるさまざまなことが原因と考えられています。

乾燥肌

 乾燥肌とは、角層の水分保持機能の低下や不感蒸泄(皮膚または呼気から蒸気として失われる水分)の増加などにより、角層中の水分含有量が低下した潤いのない肌の状態をいいます。角層の水分は、角層表面を覆っている皮脂膜、天然保湿因子(NMF)、角質細胞間脂質(セラミド)によって保たれています。乾燥肌ではこれらの保湿因子のいずれかあるいは全てが減少しているために、皮膚を保護する角層のバリア機構が破壊され、外的な刺激を受けやすくなります。
 透析患者さんは、発汗量や皮脂分泌の低下、透析の除水などで多くの人が乾燥肌になっています。健康な皮膚では、かゆみを知覚する感覚神経は表皮と真皮の境界部にとどまっていますが、乾燥肌では感覚神経が表皮内に入り込み、角層のすぐ下まで伸びてきています。さらに皮膚のバリア機能も破壊されているため、かゆみの刺激に対して敏感になります。

 

http://www.remitch.jp/report/pdf/remitch_times_vol3.pdf

尿毒症物質

 慢性腎不全で体内に蓄積する尿毒症物質がかゆみを引き起こします。通常の透析で除去されにくいメチルグアニジン硫酸塩、インドキシル硫酸などが原因物質と考えられています。

かゆみの伝達物質

 「ヒスタミン」などはかゆみの伝達物質です。皮膚に刺激を受けるとかゆみのもとになるヒスタミンが出てきて、神経を刺激し、その興奮が脊髄から大脳皮質に伝達されかゆみが認識されます。ヒスタミン、セロトニン、サブスタンスPなどがかゆみの伝達物質として知られていますが、透析患者さんのかゆみにどの程度関与しているかは、人によって異なります。

中枢神経系における内因性オピオイドの異常

 オピオイドとは、モルヒネなどの鎮痛物質の総称です。体内には、内因性のオピオイド物質が脳や脊髄のオピオイド受容体に結合して痛みを和らげる作用がありますが、同時にかゆみを誘発するものもあります。かゆみの強い透析患者さんでは、かゆみを誘発する作用のある物質(μオピオイド系内因性ペプチドのβエンドルフィン)の血中濃度が上昇し、かゆみを抑制する作用のある物質(κオピオイド系内因性ペプチドのダイノルフィン)の血中濃度との差が高値になると、オピオイド系のバランスの不均衡がおきることで、かゆみが起きていると考えられます。

透析膜と血液の接触による免疫系の変化

 透析膜と血液成分の接触により、補体系の活性化やインターロイキン-1などのサイトカインの産生が引き起こされます。これらが透析によるかゆみ増強に関与していると考えられます。

その他

 慢性腎不全に続発する二次性副甲状腺機能亢進症、ビタミンAの代謝異常、脂質代謝異常に起因する血液の流動性の悪化など、多数の因子が透析患者さんのかゆみに関与しているといわれています。

透析患者さんのかゆみの起こり方とは?

 慢性腎不全の患者さんでは10~20%ほどにみられますが、透析患者さんになると60~90%に増え、大きな悩みの一つとなっています。また、透析歴が長くなるとその頻度も増えると言われています。
 かゆみの起こる部位としては、最も多いのが背中を中心とした体幹部、ついで四肢(とくにシャント側)、頭部です。シャントの穿刺部周囲だけかゆみを認めることがあり、この場合、消毒薬やテープによるかぶれや穿刺針に対するアレルギーが考えられるので注意しましょう。
 体感温度上昇時はかゆみを感じる閾値が下がります。そのため、就寝中や入浴後、暖かい透析室にいるときなど、体が温まるときにかゆみが増強する傾向があります。
 「かゆい」というのは人間にとってたいへん不愉快な感覚です。かゆみが持続すると、透析患者さんの精神状態やQOLの悪化にもつながることもあります。なかには掻きむしる行動が習慣化しかゆみがなくても掻きむしるようになったり、不眠症になったりすることもあります。

皮膚掻痒症のときにする検査とは?

 まずは、皮膚を観察します。湿疹が原因のかゆみであれば皮膚科医の診察が必要です。ただし、掻きむしることで湿疹を認めることがよくあるので注意してください。皮膚の乾燥の程度をみます。皮膚の乾燥が強い場合(乾皮症)は、乾燥がかゆみの原因である可能性が高くなります。正確に診察する場合は、皮膚のpHや角質水分量、皮脂量などを測定することもあります。
 検査結果としてチェックする必要のあるものは、下記のものです。
 ①皮膚所見
  ・湿疹があるか
  ・乾燥しているか
  ・(角質水分量)
  ・(皮脂量)
  ・(皮膚のpH)
 ②血液検査
  ・カルシウム、リン
  ・副甲状腺ホルモン、尿素窒素、クレアチニン、マグネシウム、β2ミクログロブリン
   白血球の小産休分画、IgE
  ・(Kt/V、nPCR)
  ・(亜鉛)
  ・(ヒスタミン、セロトニン)
  ・(ビタミンA)
  ※( )内は可能ならば

最初に述べたように原因は数多く考えられますので、より異常なデータから順に精査、是正してゆく必要があります。基本として、患者さんが適切な透析を受けているか検討していきます。たとえば、透析不足のため尿毒素が過剰になっていないか、ドライウエイトの設定が低すぎて水分不足になっていないかなどですが、リンのコントロールがとても重要となります。
 さまざまな検査で異常なければ最終的に心因性であることもあります。この場合、抗不安薬のみで治るケースもあます。

かゆみの治療法とは?

皮膚掻痒症の治療

 透析患者さんのかゆみの治療は、主に乾燥肌対策と内因性オピオイドの関与への対策となります。湿疹などの皮膚病変がある場合には、外用薬やときに抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬の併用にて対処療法を開始します。ひとつの原因治療だけでなく、総合的なかゆみ対策をおこなうことで、全体の薬の量を減らしながらかゆみを効果的に抑えていきます。二次性副甲状腺機能亢進症のように原因が明らかである場合、その治療(副甲状腺摘出)の結果劇的に改善する場合もあります。

皮膚のかゆみに対する治療法

 

治療法

主な作用機序

外用薬

抗ヒスタミン軟膏(レスタミン軟膏®など)

尿素軟膏(ウレパール軟膏®など)

カプサイシンクリーム

ヨモギエキス(ヨモネオール®など)

止痒水

電解酸性水

アロマセラピー

抗ヒスタミン、保湿

保湿

抗サブスタンスP(伝達物質)

抗ヒスタミン

メントール、フェノール等の合剤

皮膚のpH低下

皮膚状態の改善、精神安定

内服薬

抗ヒスタミン薬(ポララミン®など)

抗アレルギー薬(フェキソフェナジン®など)

抗不安薬

漢方薬

活性炭(クレメジン®)

抗ヒスタミン

抗アレルギー

精神安定

中分子物質の吸収

注射薬

グリチルリチン製剤(強力ミノファーゲンC®など)

脂肪乳剤(イントラリポス®など)

ノイロトロピン

エリスロポエチン

抗アレルギー

亜鉛の補給

抗アレルギー

抗ヒスタミン?

その他

紫外線照射(UVB)

低透析液温

無マグネシウム透析

透析器材の変更

HDF

副甲状腺摘出術

皮膚内肥満細胞、ビタミンAの抑制

体感温度低下

血清マグネシウム低下

アレルゲンの除去

中分子物質の除去

PTH、Ca、Pの是正

透析ケア2003 夏季増刊より引用

難治性のかゆみの治療には、オピオイドκ作動薬のナルフラフィン(レミッチ®カプセル)を使用します。2009年から透析治療に伴う難治性のかゆみに対して使用されています。各施設で70~90%の患者でかゆみが軽減したと報告されています。

皮膚掻痒症の透析

 透析については十分に尿毒素を除去すること、とくにカルシウム、リンのコントロールは重要です。中分子物質の除去のためにHDF(血液濾過透析)への変更することもあります。また、皮膚温上昇によるかゆみの予防として透析温度を低く設定することも効果があります。アレルギーが疑わしい場合は、ダイアライザや穿刺針などの透析器材を変更します。エチレンオキサイド(EO)ガス滅菌の穿刺針がアレルギーを起こす原因の時もあります。

皮膚掻痒症の予防方法は?

皮膚の乾燥予防方法

過度な入浴は避ける
 入浴することで皮脂が失われるので過度な入浴は避けましょう。高温の長湯では、皮脂膜や角質細胞間皮脂がとけだしてしまします。そのため入浴時には、湯温は低め、入浴時間も短時間にしましょう。入浴後は、水分の蒸発を防ぐためすぐに軟膏やクリームを塗るようにしましょう。

石鹸で洗いすぎない
 洗いすぎてしまうと皮脂膜がなくなってしまいます。石鹸で洗いすぎないようにしましょう。

過剰な空調は危険
 透析患者さんは、貧血や体温調節異常のため健康な人に比べ、「寒がり」の人が多くなっています。過度の暖房や電気毛布のように皮膚の水分を直接奪うような暖房器具をさけることも大切です。空気が乾燥している場合は、加湿器などで部屋の湿度を50~60%に保つようにしましょう。

肌着は皮膚への刺激が少ないものにする
 綿や絹など皮膚への刺激が少ない肌着を選ぶようにしましょう。

発汗を促す
 透析歴が長くなる(特に5年以降)につれて汗腺は萎縮、減少することが知られています。日頃から適度な運動を心がけ、汗をかく習慣を身につけるようにしましょう。

食事療法

リンを上げない
 リンの上昇はかゆみに直結するので、日頃からリンの摂り過ぎに注意しましょう。

灰汁の強い野菜を食べすぎない
 灰汁の強い野菜は、ヒスタミンやヒスタミン遊離物質を含むので食べ過ぎないようにしましょう。

その他

厳密な体重管理
 体重が増えれば透析時の除水が過剰になり、結果的に皮膚の乾燥、発汗低下につながります。

 かゆみは、多くの透析患者さんが悩んでいる合併症です。かゆみによって日常生活や睡眠に影響がでている方もいらっしゃると思います。かゆみも合併症の一つなので、医師や看護師に相談してみましょう。

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