基礎知識

透析患者さんは脳出血や脳梗塞に要注意!発症頻度から見る違い!

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 透析患者さんにおける脳血管障害の発症頻度は、透析をしていない人と比較すると脳出血が約8倍、脳梗塞が約2倍と言われています。近年、新規透析導入患者さんの高齢化や糖尿病性腎症からの透析導入増加などの影響で、脳梗塞は増加傾向にあります。今回は、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害についてお話ししていきたいと思います。

脳血管障害はなぜ起きるの?

 透析患者さんでは、脳血管の動脈硬化が進行している人が多いといわれています。そのため、無症候性脳血管障害である無症候性脳梗塞や大脳白質病変、無症候性微小脳出血などを起こす割合が透析をしていない人より多くなっています。動脈硬化が進む原因には、加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常や喫煙などがあります。透析患者さんの場合、血液中のカルシウムやリンの濃度が高くなると血管の石灰化が起こりやすくなり動脈硬化が進む原因となります。動脈硬化が強く、脳を栄養する主な動脈に狭窄がある場合、狭窄していても何とか血液の循環が保たれているところに急な血圧低下や脱水が起こることが原因で血管が狭くなっている部分から先の血液の流れが減少するため虚血性脳血管障害の危険因子となります。

脳梗塞が起きやすい時期

 脳梗塞は、透析終了後6時間以内に発症する人が多いとされています。透析中の血圧低下の影響が大きいと報告されています。除水に伴う血圧低下や、透析後の起立性低血圧による脳血流量の低下が起きるためだと考えられます。糖尿病をもっている透析患者さんでは、透析後の起立姿勢による脳血流の減少が著しく、脳虚血が誘発されやすいことが示されています。また、脳の血流を一定に保つという自動調節機構がきちんと働かないことも脳梗塞の原因と一つと考えられています。
 脳血流量の低下は、除水による循環血液量低下や、ヘマトクリット上昇により血液が濃縮されることで起こります。

脳血管障害の症状とは?

 脳血管障害が起きたときには、さまざまな症状が急激に起きたり、徐々に悪くなったりすることがあります。症状が昼間におきることも、朝起きた時に気づくこともあります。特によく見られる症状は下記の3つの症状です。

意識がない

・呼びかけてもゆすっても反応がない
・すぐに寝てしまい起こしてもなかなか起きない
・なんとなくはっきりしない

麻痺がある

片側にだけ症状が現れるのが特徴です。
・片手だけうごきが悪い
・手足が思うように動かない
・手足がしびれる
・手足に力が入らない
・手足の感覚がない
・片側の口角がさがり、口がしっかりと閉じない

喋りにくい

・話そうと思っても言葉にならない
・呂律が回りにくい
・周りの人が聞き取りにくい
・しゃべり方がおかしい

その他の症状

・めまい
・片側の目が見えない(一部が欠けてみえる)

脳血管障害はどのような検査するの?

 脳血管障害は、頭部CT検査や頭部MRI検査によって診断されます。脳血管障害のタイプによって治療法が異なるため、できるだけ早く検査を受けることが重要です。
 透析患者さんにおける脳出血の部位で最も多いのは、大脳基底核となっています。大脳基底核の脳出血は、発症1ヶ月以内の早期死亡率が高く、きわめて生命予後不良な合併症となっています。

くも膜下出血

 くも膜下出血は、その80%脳動脈瘤(脳の動脈にできたコブ)の破裂により起こります。この脳動脈瘤は、多発性のう胞腎を原疾患とする透析患者さんの5~10%にみられ、頻度の高いことが知られています。そのため、MRアンギオグラフィによって脳動脈瘤の有無の検索が大切です。

慢性硬膜下血腫

 慢性硬膜下血腫は、比較的軽度の頭部外傷により硬膜とくも膜の間で血管が破綻し、くも膜下で血液が溜まった状態のことをいいます。透析患者さんは、明らかな外傷がなくても硬膜下血腫を発症することがあります。その原因として透析中に使用する抗凝固薬の影響や、透析中の脳容積の大きな変化によるものと考えられています。高齢の透析患者さんの場合は、特に頭痛、嘔気、嘔吐や意識状態の変化、起こしてもすぐに寝てしまう、性格が変わったなどの症状がある場合には、慢性硬膜下血腫の可能性を考えて頭部のCT検査をすることが大切です。

脳血管障害の種類とは?

 脳血管障害には、大きく分けて2つのタイプに分けられます。

脳出血(血管が破れる)

 脳の血管が破れて出血した状態です。透析患者さんでは透析をしていない人に比べ発症しやすくなっています。1年間で1,000人当たり、約3.0~10.3人に発症しているといわれています。主な原因は高血圧です。透析患者さんの脳出血による死亡率は、平均53%と一般の人の19%より高くなっています。
 脳出血が起きると、血の塊(血腫)が大きくなっていきます。脳には、頭蓋骨があるので脳の広範囲が圧迫され損傷します。また、脳内を循環している脳脊髄液が出血によってせき止められ、髄液が過剰に溜まることも脳を圧迫してしまいます。これらの状態から脳が膨れ上がり、呼吸や心拍をコントロールできなくなると致命的な結果になってしまいます。

脳梗塞(脳の血管がつまる)

 脳の血管が詰まって血液が流れなくなってしまう状態です。患者さんが高齢化、糖尿病などによって動脈硬化が進行した患者さんの増加などから脳梗塞は増加傾向にあります。
 脳の動脈が狭くなったり、塞がったりすることで脳に十分な血液が供給されなくなってしまいます。このような状態が続くと脳の細胞が死滅してしまいます。一時的に血液が流れなくなってしまう一過性脳虚血発作というのもあります。
 脳の血管がつまる原因には、動脈硬化による脳梗塞、心臓からの血の塊が脳の動脈を塞ぐ心原性脳梗塞、脳深部の小動脈が閉塞する小梗塞(ラクナ梗塞)に分けられます。
 血液透析患者さんが脳梗塞を発症するのは、除水に伴う血液濃縮と血圧低下、透析後の起立性低血圧などの影響を受けるため、透析終了6時間以内に起きることが多くなっています。

脳血管障害の治療方法とは?

脳出血の場合

 脳出血発症後3日以内に死亡するのが過半数を超えるため、しっかりとした管理が予後に大きく影響します。

①脳が膨れ上がる(脳浮腫)のを防ぐ

脳浮腫予防のために、透析中に浸透圧利尿剤(グリセオール®やD-マニトールなど)という脳の水分を血管内に引き込む点滴をします。意識障害が重篤な場合には、血腫の除去や脳室から脳脊髄液を抜くなどの外科的な緊急処置が必要となります。

②血圧を下げる

再出血や血腫が広がるのを防ぐため、発症直後からの血圧コントロールが重要となります。収縮期血圧を180mmHg以下に保つよう推奨されています。

③透析管理

血腫が広がるのを防ぐために、脳出血発症後24時間以内の透析はなるべく避けるようにします。透析中に使用する抗凝固薬は出血の危険性が少ないもの(メシル酸ナファモスタット)へ変更します。

脳梗塞の場合

①脳が膨れ上がる(脳浮腫)のを防ぐ

 脳出血の場合と同様に管理します。

②透析管理

 透析中、安定した血圧を維持するようにします。急速な大量除水は、脳の虚血(血流低下)を助長するため、大量に除水が必要な場合には、持続的血液透析濾過といって長時間かけて少しずつ除水を行ったり、体液量を調節しながら連日血液透析または血液濾過をおこなったりする必要があります。

③血の塊を溶かす(抗凝固療法)

 原因に応じて、抗血栓療法を行います。動脈硬化血栓性梗塞やラクナ梗塞に対しては抗血小板薬や抗凝固約が使用されます。心原性脳塞栓症の場合、発症後24時間以上経過した時点で、出血性合併症(出血性脳梗塞)がなければ、ヘパリンの使用が考慮されます。

 脳出血と脳梗塞とでは、血圧のコントロールは異なります。血圧が下がると脳の血流が低下するため、脳梗塞を発症しはじめた時(急性期)には積極的に血圧を下げようとはしません。

糖尿病透析患者の脳血管障害の特徴とは?

 糖尿病患者さんは、血管閉塞から脳梗塞を発症しやすいという特徴があります。しかし、透析導入後の糖尿病患者さんの場合、血管閉塞よりも血管が破綻し、出血する傾向が高まっています。そのため、糖尿病透析患者さんは、脳梗塞とともに脳出血の頻度が高いことが特徴です。

脳血管障害の予防法とは?

血圧管理

 脳出血や脳梗塞の原因となる「動脈硬化」にもっとも関連が深い高血圧に日頃から注意することがとても大切です。透析患者さんは、身体に水分や塩分が溜まりやすくそれが原因で血圧が上がりやすくなります。血圧が高いと脳出血を発症しやすいので塩分と水分の制限をしっかりと守り、血圧が上がりすぎないようにコントロールしましょう。
血圧は、収縮期血圧(上)よりも拡張期血圧(下)の方が脳出血発症に影響が大きいと言われています。拡張期血圧を80mmHg以下では脳出血のリスクが減少するといわれています。

体重管理

 体重が増えすぎてしまうと、透析中にたくさん除水しなければなりません。たくさん除水をおこなうと血圧が急に下がったり、透析後もなかなか血圧が上がらなかったりします。動脈硬化の強い血管がつまってしまい、「脳梗塞」を起こす可能性があります。そのため、日頃から塩分・水分の制限を守り体重をコントロールするようにしましょう。

生活習慣の改善

 脳出血や脳梗塞には、動脈硬化が深く関連しています。糖尿病や高脂血症(脂質代謝異常)の治療、肥満の解消、禁煙、ストレス解消などの生活習慣の改善をおこない動脈硬化を予防することがとても大切です。

リンのコントロール

 血液中のリン・カルシウムの濃度が高くなると、血管の石灰化が起こりやすくなります。特にリンのコントロールをしっかりとするようにしましょう。

 脳血管障害の予防は、今回お話してきた危険因子への対策が最も重要です。日頃から血圧や体重の変化など気を付けるようにしましょう。
手足が動かしにくくなったり、喋りにくくなったりする症状は、脳血管障害が起きる前触れかもしれません。数分だけ症状が出て消失したという場合でも医師へ相談するようにしましょう。

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