透析原因・

透析中ってどんな症状が現れるの?その原因とは?

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 血液透析は、バスキュラーアクセス(シャント)より血液を体の外へ導き(体外循環)、人工腎臓(透析器:ダイアライザー)を通して、体に溜まった毒素や水分を除去する治療です。
 健康な人の腎臓は、24時間休まず働いていますが、血液透析では通常、1回4時間を週3回治療が行われます。血液透析では、短時間の間に補正を行うため、透析中にはいろいろな自覚症状や他覚症状(客観的にとらえることができる症状)が出現しやすくなっています。今回は、透析中に起こる症状とその原因についてご説明していきます。

透析中に起こる症状とは?

 血液透析自体に伴う合併症として、体外循環によるものがあります。透析器の大きさにもよりますが200ml程度の血液が体外に出るため、血圧が下がったりすることがあります。また、透析器は人工物のため、血液が透析器の中を通るときに血液が透析器の中で固まったり、アレルギー反応を起すなどさまざまな反応を起こします。
 また、血液透析の短時間で代謝老廃物や水分を除去することによって症状が出現します。
透析中に下記の症状が起きやすくなっています。

  • 不均衡症候群
  • 血圧の変動(上昇・低下)
  • ショック
  • 不整脈
  • 筋のけいれん
  • 出血
  • 血管痛

不均衡症候群とは?

 不均衡症候群は、体がまだ血液透析に慣れていない透析導入期によくみられます。血液中の老廃物が血液透析を行うことで急激に除去されてきれいになります。しかし、脳の中の老廃物は除去されにくく、除去されるのに時間がかかるために、透析直後では血液と脳の間にアンバランスが生じてしまいます。そのため、脳の中の老廃物を薄めようとして脳は水をどんどん吸収することで、脳がむくみ、脳の内圧が高くなることが原因で頭痛、吐き気、気分不良などの症状が引き起こされます。症状は、透析後半から終了後12時間以内に起こります。
 軽度~中等度の不均衡症候群では、頭痛、吐き気、嘔吐、血圧変動(上昇または低下)などを認めます。しかし、ひどくなるとけいれんや意識障害を認めることもあります。体が透析に慣れていけば徐々に起こりにくくなります。最近では、透析技術や器具の開発により不均衡症候群を起こす患者さんはかなり少なくなっています。
 不均衡症候群の症状が透析直後に生じた場合は、小さな膜面積のダイアライザーを使用し、血流量や透析液流量を下げ、透析時間を短くして透析効率を抑えた透析を頻回に行い、少しずつ段階的に尿毒素を除去して良くことで予防することができます。それ以外で生じた場合には逆に時間をかけてゆっくりと透析を行うことが有効です。緩やかな透析を行うには、水分や塩分、タンパク制限を守ることが大切です。

不均衡症候群の主な症状

・頭痛
・吐き気
・気分不良
・血圧の上昇・低下
・けいれん
・意識障害     など

透析中の高血圧とは?

 透析を始めた時は、多くの人に高血圧がみられます。透析中に血圧が上がる場合には、頭痛、吐き気、動悸、指先のしびれなどの症状が現れます。
 透析による除水がすすむと、体の中の体液量が減ります。すると腎臓への血流量も極端に低下するため、体が血圧を上げて腎臓への血流量を維持しようとすることが原因で血圧が上がります。

低血圧とは?

 透析患者さんにとって、低血圧は日常的に遭遇することの多い合併症です。
特に低血圧を起こしやすい状況は、高齢、糖尿病、低栄養、貧血、心機能障害などが挙げられます。

低血圧の主な症状 軽度:めまい、立ちくらみ、冷や汗、あくび、倦怠感 など
重度:意識消失や全身けいれん、失禁 など
また、血圧が低下した際に正常な血液の循環が障害されることで、シャント閉塞や脳梗塞、心筋梗塞といった重大な血管閉塞をきたすこともあり、注意が必要です。

透析低血圧

 透析低血圧は、透析中~透析後に血圧が低下するものをいいます。
透析中は、除水に伴って血管内の水分が減り、体内を循環する血液量が低下することで、血圧が下がりやすくなります。しかし、体内では血圧低下を防ぐために、交感神経の働きによって血管が収縮し、それによって血管内の容積を減少させて少ない血液量でも血圧を保てるようにしたり、心臓の収縮力を強めて血圧を上げようとします。
 また、除水によって血液の濃度が高くなると、浸透圧の関係により血管外にある水分を血管内に引き込んで血液中の水分量を保とうとする働きがあります。
 したがって、交感神経の働きが鈍くなるような①自律神経障害がある場合、②心臓の収縮力が落ちるような心機能低下をきたす心疾患がある場合、③水分が血管内に戻るスピードが上回るような場合には、透析中に血圧が下がりやすくなります。

透析時低血圧の原因とその予防法

①透析と透析の間の体重増加が多くなり、1時間当たりの除水量が多い
 中1日でドライウエイト(身体に余分な水分が残っていない状態の体重)の3%以内、中2日ではドライウエイトの5%以内の増加までが目標です。塩分や水分の摂取を制限し、透析と透析の間の体重が増えすぎないように注意しましょう。
②透析中または透析直後など血管内の水分が少ない時間帯の食事摂取
 食物を摂取すると、消化管の血管が拡張し心臓に戻ってくる血液が減少することが知られています。透析時低血圧をきたしやすい患者さんでは、透析直前、透析中の食事を避け、帰宅してから食事を摂るようにしましょう。
③高齢、糖尿病、動脈硬化などによる自律神経障害や血管収縮の障害
 自律神経の働きを助ける薬
 内服薬:アメジニウム(リズミック®)、ロキシドパ(ドプス®)
 注射薬:エチレフリン(エホチール®)
④低たんぱく血症のため、血管に水分を戻すスピードが落ちている
⑤透析中も降圧薬の効果が強く残っている
 医師と降圧薬の調節を相談しましょう
⑥ドライウエイトの設定が現在の体格と合っていない
 太った時は、ドライウエイトを上げる
 痩せた時は、ドライウエイトを下げる
 血液検査やレントゲンの検査結果、血圧の推移などをもとにドライウエイトを調節してもらいましょう。
⑦心疾患のため心機能が低下している
 ①~⑥の原因に当てはまらない場合は、心機能が低下している可能性があります。
 必要に応じて循環器医に相談したり、担当医と透析方法の見直しなどを相談しましょう。
⑧その他の原因
 ・透析液、透析膜、抗凝固薬などが体質に合っていない
 ・透析液温度が高い
 ・不整脈
 ・低血糖発作

透析中に低血圧の症状が現れたら?

 あくびや、目の前が暗くなる、吐き気、息苦しさ、冷汗、筋肉のけいれん、足がつるなどの症状が出現した場合は、透析室のスタッフへ伝えるようにしてください。

血圧低下時の対処法

 スタッフが血圧や脈拍などの測定を行うと同時に除水を停止、患者さんの下肢を拳上します。重力により下肢の血流を脳や心臓など身体の重要な部分に流れるようにするために行います。これらの対応を行い血圧が上がってくるか経過観察します。それでも血圧が上がらないような場合には、必要に応じて生理食塩水などを補液したり、血圧を上げる薬を内服することもあります。酸素投与などを行うこともありますが、通常これらの処置で透析中の血圧低下は改善します。

ショックとは?

 ショックとは、全身の臓器や組織に十分な血液を供給するのに必要な血圧が維持できなくなった状態のことをいいます。

低血圧によるショック
 透析時は、除水により循環血液量が減少することが原因で血圧低下が起きます。血圧低下が進むとショック状態となり意識障害を起こします。

アレルギーによるショック
 ダイアライザー(透析器)、血液回路などによる生体的不適合や薬剤が体に合わないことが原因で起こります。かゆみ、発赤、蕁麻疹、顔のむくみ、唇が腫れあがるなどの症状が現れます。アレルギー症状が重篤になると、呼吸困難やアナフィラキシーショックを起こします。ダイアライザーを生体適合性の膜に変更したり、使用器材、薬剤ともに初めて使用する場合は、アレルギー症状に注意するようにして下さい。

 ショックが起きた時の対応は、低血圧時の対処法を参照してください。

不整脈とは?

不整脈が起きる原因

 不整脈の発生に関係するカリウム、カルシウムなどの電解質は透析により大きく変動します。また透析中に血液の酸性度は急激に補正され、除水により体内の血液量は急激に減少し、自律神経系に負担をかけます。これらにより透析中は不整脈が起こりやすい状態になります。
 透析導入期は、溢水および電解質バランスの破綻が強い時期です。カリウム値変動も生じやすく、不整脈による死亡率が高い時期です。とくに、高齢者、心臓病のある患者さんはこの傾向が強くみられるので注意が必要です。透析導入早期や心血管系の合併症がある場合には、透析中に心電図モニターを装着して観察します。

不整脈の時に現れる症状  動悸、息切れ、不快感、脈が抜ける感じ、血圧低下、めまい、失神などの症状がみられます。

不整脈の治療

 不整脈の治療の目的は、不整脈に伴う自覚症状をなくすこと、突然死などの危険な状況を防ぐことです。
 不整脈の原因が心臓病などの場合は心臓の治療を優先します。心臓の負担を減らすためには、ドライウエイトの見直しや貧血の改善も必要です。場合によっては透析時間や透析方法を変える必要もあります。
 また、病状に応じて不整脈をコントロールする内服薬を用いることもあります。
重症例や緊急時には、電気ショックやペースメーカーの植え込みなどの治療が必要となる場合があります。

不整脈を予防するには

 不整脈出現の予防には、誘因となる嗜好品(喫煙、コーヒーなどのカフェイン飲料、アルコール)、不眠、ストレスなどを避けることが大切です。また、透析にともなう電解質や循環血漿量の急激な変化は不整脈の引き金となりえます。体重増加や電解質アンバランスを最小限に抑えられるよう、ナトリウム、カリウム、水分の制限など食事指導が大切です。

筋けいれん(こむら返り)とは?

 こむら返りが起こる確かな原因は分かっていません。こむら返りは、夜眠っている時に起こることもありますが、透析中では主に後半に起こり、とくに除水量が多かったときや、除水速度が速いなどによる循環血液量減少に伴う筋肉の虚血によっておこります。また、血中の電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)バランスが乱れた時に起こるようです。

筋けいれんの症状  筋肉のひきつれが、下肢の筋肉(とくにふくらはぎ)に起こりやすく、こわばりや痛みとして感じます。ひどいときには、上司の筋肉、背筋、腹筋などにも現れます。

筋けいれん(こむら返り)の治療

 透析中にこむら返りが起こった場合、生理食塩液、10%塩化ナトリウム、50%ブドウ糖液、グルコン酸カルシウム製剤などを注射します。漢方薬の芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)が有効なことがあります。
 けいれんしている筋肉を温かいタオルで温めたり、筋肉を伸ばす、強く圧迫する、マッサージをすると症状が和らぎます。

筋けいれん(こむら返り)の予防

・体重が増えすぎないように注意する
 透析中に血圧が下がりすぎないように、大量の除水をしないように注意します。その他には、日ごろから塩分や水分と摂り過ぎに注意しましょう。
・筋肉の疲労を避ける
 透析前に過度な運動をしないようにしましょう。透析中に不自然な姿勢をとったり急に体の向きを変えたりするよ、けいれんを誘発することがあります。
・こむら返りを起こしやすい部分は、冷やさないように注意する

出血

体外循環時の接続はずれや抜針による出血  透析中は、挿入している針や血液回路を引っ張らないように気をつけましょう。出血に気付いた場合には、透析室スタッフを呼ぶようにしましょう。

脳血管や消化管などの出血

 急に片側の手足が動きづらくなってきた時や、喋りにくくなったり、ボーッとしてくるなどの症状がある場合、脳の出血が疑われます。このような症状が出現した場合には、透析室スタッフを呼ぶようにしましょう。

血管痛

血管痛の原因

・穿刺による血管壁の刺激や、緊張による血管の攣縮(痙攣性の収縮)、穿刺の失敗や血管の炎症などで血管の痛みが生じます。
・静脈の狭窄、硬化があるという場合に静脈側返血により血流が増えることで血管が伸展、拡張するために痛みが生じる場合があります。

血管痛の対処法

・血管の炎症による痛み以外は、温湿布やマッサージを行う。
・穿刺部位を変えてみる。
・体外循環血流量を減らしてみる。
・上記の対処をおこなっても痛みがひかない場合は、医師の指示のもと鎮痛剤を内服する。

透析中に何かいつもと違うと感じたら…

 透析中は、寝て過ごす方もおられます。寝ているのか、しんどくなっているのか医療者からは分からないこともあります。少しでもいつもと何か違うなと感じるときや、今回お話した症状があれば透析室スタッフへ知らせるようにして下さい。

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