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透析患者さんは、なぜ血圧が上がるの?その原因とは?

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 人工透析を開始すると、患者さんの身体にはさまざまな症状が現れることがあります。その症状の一つに「高血圧」があります。疫学調査によれば、透析治療を開始した患者さんのうち、7割以上に高血圧の症状が現れているとされています。

 透析治療を開始しても、高血圧などの合併症に見舞われてしまうと健康的な生活が阻害されていまいます。しかし、前もってどのような症状が現れるかを理解しておけば、日常生活の中で注意して症状の出現を予防できるかもしれません。

 透析患者さんの多くに血圧の上昇が見られる原因について解説します。これから透析治療を開始する人、既に透析治療を受けている人は是非とも参考にして、日常生活にフィードバックしてください。

「血圧が高い」とはどういうことか?

 まず最初に、そもそも「血圧が高い」「血圧が上がる」ということがどういうことなのか、私たちの身体にとってどのような影響を及ぼすものなのかについて簡単に説明しておきます。

 「血圧」とは、血管内を流れる血液が血管壁に対して与える圧力のことを言います。わかりやすく言えば、心臓から流れてくる血液が血管を押す時の力ということになります。肺から酸素を含んだ血液が送られてきた心臓は、その鼓動によって血管に血液を送り出しています。全身を巡った血液は肺へと到達し、酸素の代わりに二酸化炭素を交換して再び心臓から全身に送り出されます。

 一般的に血圧とは、動脈(特に上腕動脈のこと)の圧力のことを言います。近年は心臓付近の大動脈の血圧についても注目されているのですが、計測しやすいのはやはり上腕動脈です。血圧には2種類の数値があり、いわゆる上の血圧と呼ばれているのが心臓が収縮した時の血圧である「収縮期血圧」で、下の血圧と呼ばれる心臓が拡張した時の血圧を「拡張期血圧」と言います。

 血圧が高いということは、計測された血圧の数値が高い、つまり血管壁にかかる圧力が強いということになります。高血圧の診断基準は、上が140mmHg、下が90mmHg(家庭血圧の場合は135mmHg/85mmHg)です。

 一般的に高血圧は良くない状態であるという認識がありますが、それにはきちんとした理由があります。血圧が高いということは、それだけ血管や心臓の負担が常に大きいということになります。結果、「動脈硬化」「心臓肥大」といった疾患が進行してしまいます。

高血圧には2種類ある

 高血圧を、その原因によって分類する場合、2種類に分類することができます。

・本態性高血圧
・二次性高血圧

本態性高血圧

 高血圧の内、原因疾患が特定されないものを「本態性高血圧」と言います。日本人の大半がこの高血圧に分類されています。主な原因は生活習慣の中に存在し、以下のような因子が考えられます。

  • 肥満
  • 塩分の過剰摂取
  • 飲酒
  • 喫煙
  • ストレス
  • 運動不足
  • 体質の問題

二次性高血圧

 高血圧の内、血圧が高くなっている原因がはっきりと診断できるものを「二次性高血圧」と言います。高血圧患者の全体の10%程度がこちらに分類されます。主な原因は以下のとおりです。

  • 腎臓の疾患
  • 原発性アルドステロン症
  • 褐色細胞腫
  • 薬剤の副作用

なぜ透析治療で血圧が高くなるのか?

 透析治療によって血圧が高くなる最大の理由「体液量が過剰である」ことです。その他にも主に以下のような理由で血圧が上昇します。

  • レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の異常
  • 交感神経活性の亢進
  • 尿毒症

過剰な体液量

 透析治療を開始する患者さんの多くは高血圧を合併しています。腎臓には体の中の余分な水分や老廃物を濾過して、尿として体の外に排出する役割があります。透析治療が必要なほどに腎臓の機能が低下している場合、当然ながら濾過機能も低下してしまいます。

 透析治療を受けるほどに腎臓機能が低下していると、余分な水分が体の中に溜まります。つまり血液中の水分量が多く、血管内に多くの血液が流れていることになります。心臓から押し出される血液量が多い分だけ、血圧も上昇します。

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の異常

 腎臓は血液を濾過することによって、体の水分とナトリウムのバランスを調整しています。体の水分が足りない場合、「レニン」という酵素を分泌し、アンジオテンシンを活性化することで血管を収縮させます。これによって水分と塩分の再吸収を促すのですが、このシステムを「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系」と言います(塩分が多い場合は、逆にレニンの分泌を抑制する)。

 レニンによって変換されたアンジオテンシンには、血管収縮作用があり、血圧を上昇させます。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に異常が発生することによって血管収縮と塩分増加により、高血圧になります。

交感神経活性の亢進

 自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つの神経で成り立っています。自律神経の2つの神経はどちらも血圧の変化に関係しており、交感神経が優位になると血圧を上昇させます。

尿毒症

 腎臓が機能低下を起こすと、血液中の有害物質を十分に濾過できずに「尿毒症」を引き起こします。尿毒症の症状はさまざまですが、その一つに血圧の上昇が含まれています。

その他の原因

  • 遺伝
  • 内皮依存性血管拡張の障害
  • エリスロポエチン

透析患者さんが高血圧になるとどうなるのか?

血圧上昇による症状

 一般的に、高血圧そのものには自覚症状が無いと言われています。しかし患者さんの年齢や健康状態、高血圧が重度の場合には以下のような症状が現れる事が考えられます。

  • 吐き気
  • 頭痛
  • 肩こり
  • 耳鳴り
  • 貧血
  • 動悸
  • 呼吸困難
  • イライラ
  • 睡眠障害
  • むくみ、体重増加

高血圧によってリスクが高まる合併症

 疫学的に見ると、透析治療を受けている患者さんで高血圧になると、血圧が正常な患者さんと比較して死亡リスクが高まるとされています。高血圧は動脈硬化を進行させてしまいますので、以下のような合併症のリスクを高めることになります。

  • 脳梗塞
  • 脳出血
  • くも膜下出血
  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心不全
  • 心肥大
  • 腎不全
  • 慢性腎臓病
  • タンパク尿
  • 大動脈瘤
  • 大動脈解離
  • 眼底出血

透析患者の血圧が高い場合どうすれば良い?

 高血圧が継続することは、さまざまな合併症や不快な症状の出現を見過ごすことになります。透析治療を受けている患者さんの血圧が高い場合、透析治療におけるドライウェイトの見直しを中心に、上昇している血圧を下げる必要があります。

ドライウェイトを見直す

 透析治療を受けている患者さんの高血圧の最大の原因は、過剰な体液量です。これを是正するためには、適切なドライウェイトの設定が欠かせません。ドライウェイトの是正は除水量の是正であり、血圧の変動についても改善が見込まれます。血圧の上昇については除水量が少ないので、基本的にドライウェイトを軽く設定し直すことになります。

水分と塩分を控える

 透析治療を受けている人は、腎臓の機能低下によって尿量が少なくなります。体内の水分量が多いと血圧が高くなりますので、その原因となる水分と塩分を担当医の指示通りに控えるようにしてください。

水分の制限

 透析が必要なほどに腎臓機能が低下している場合、腎臓で水分をコントロールできずに尿量が減少します。身体には余分な水分が溜まり、血液量が上昇することで血圧が上昇します。日頃から、摂取する水分量に注意する必要があります。

 飲み物もそうですが、食事による水分摂取についても十分に注意しなければなりません。例えば海藻類は食物繊維やミネラルの摂取で多くの食事療法で推奨されている食べ物ですが、乾燥わかめを水で戻すと何倍にも膨れることからわかるように戻した後の水分量は非常に大きいです。意外な食材や料理で知らず知らず水分を摂取して血圧を上げてしまうので注意してください。

塩分の制限

 透析患者さんは、塩分の摂取について注意しなければなりません。塩分と血圧の関係性については十分な解明が進んでいない部分もありますが、血液中のナトリウム濃度を下げるために水分が血液中に多く取り込まれ、血液量が増加することによって血圧を上げると言われています。

 塩は基本的な調味料の一つであり、醤油などの馴染みの深い調味料にも多く含まれています。漬物にも使用されるなど、日本人は無意識のうちに多くの塩分を摂取しています。厚生労働省の調べによれば、日本人の平均的な塩分摂取量は1日あたり9~11gであり、推奨されている塩分摂取量6gの1.5~2倍の量を摂取している計算になります。

降圧剤を使用する

 ドライウェイトの適切な設定と食事療法によっても高血圧が持続する場合は、降圧剤の投与が考慮されます。選択される降圧剤は急激な血圧降下作用が見込まれる短期効能型ではなく、臓器保護作用が示される長期効能型が望ましいです。ただし、血圧が下がりすぎて低血圧の症状が現れる可能性も考えられます。

透析患者さんの降圧目標値とは?

 社団法人日本透析医学会のガイドラインによれば、「心機能低下がない」「安定した慢性維持透析患者」における血圧の目標値は、週初めの透析前血圧で140/90mmHg未満とされています。ガイドラインには他にも以下の内容が示されています。

・透析患者における血圧は、透析室における血圧のみならず家庭血圧を含めて評価すべきである
・目標血圧の達成にはドライウェイトの適正な設定が最も重要である
・ドライウェイトの達成/維持後も降圧が不十分な場合に降圧剤を投与する

透析治療は「低血圧」の原因にもなり得る

 透析治療を開始すると血圧が上昇することが考えられるのですが、逆に低血圧になる透析患者さんも少なくありません。低血圧は透析治療による合併症の中でも、特に発生頻度が高い症状です。

透析治療で血圧が低下する理由

 透析治療によって血圧が低下する理由は、透析によって除水が行われることです。除水によって血液中の水分量が減少すると、取り除かれた水分の分だけ血液量そのものが減少することになります。心臓から送り出される血液量が少なくなるので、血圧も低下してしまうのです。

 透析治療を受けているということは、医師の指示に従って日々の食事の内容が適切であり、運動量も十分な生活が送られていることでしょう。これにより筋肉や脂肪などの、水分以外の重量が増加し、体重が増加します。結果、ドライウェイト(透析治療時の目標体重)の目標に対して透析開始時の体重が重くなり、体内の水分が必要以上に除去されてしまいます。

透析治療と血圧低下のタイミングについて

 透析治療を受ける際に低血圧になるのは、どの患者さんでも同じタイミングで生じるというわけではありません。大きく分けると以下のようなタイミングで低血圧の症状が現れることが多いです。

  • 透析治療開始時
  • 透析治療終了時
  • 透析中
  • 透析治療の最初から最後まで一貫して

低血圧の症状

 透析治療において低血圧になると、以下のような症状が現れる可能性があります。

  • 気分が悪くなる
  • だるく、疲れやすくなる
  • めまい、立ちくらみ
  • 吐き気、嘔吐
  • 頭痛
  • 筋肉の痙攣
  • あくび
  • 動悸
  • 冷や汗

血圧低下のリスクを高める要因

 透析治療を受けている患者さんに以下の要因がある場合、透析治療によって血圧低下を起こすリスクが高くなるとされています。

  • 高齢者
  • 糖尿病
  • 心機能の障害
  • 低栄養

透析治療による血圧低下の対処法

 医師の指示に従っていれば、食事や運動については問題ないでしょう。そのため、透析治療によって低血圧になる場合の対処法はドライウェイトを見直すことになります。ドライウェイトが現状の適正値よりも低く設定されていれば、ドライウェイトを高く設定することで過剰な除水は行われず、血液量の減少による低血圧は回避できます。

 また、透析終了時に低血圧の症状が見られた場合は、生理食塩水の補液によって症状を改善することも可能です。多くの場合は補液だけで十分なのですが、改善効果が不十分であった場合には昇圧剤を使用するケースもあります。

 もし高血圧改善のために降圧剤を服用している場合は、その減量や中止については慎重にならなければなりません(降圧剤を服用しているということは高血圧の治療中であり、特に患者さんの自己判断による服用中止は高血圧を悪化させるので危険です)。

透析治療による血圧変動に注意

 腎臓を悪くしている患者さんは、血中の水分量の多さによって血圧が上昇します。それだけでなく、除水によって低血圧を起こすことも考えられます。透析治療は、その性質によって血圧の変動はリスクとして考慮しなければなりません。

 しかし、血圧の変動を見過ごせばさまざまな不快な症状を呈したり、合併症によって死亡リスクを高める結果になります。透析治療の種類によっては血圧変動などの副作用のリスクを下げられる可能性がありますので、高血圧や低血圧に悩んでいる透析患者さんは担当医に相談してみてください。

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