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1回の血液透析に必要な水は100L以上必要?徹底した水質管理で安心!

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 人工透析では、血液中の余分な水分や老廃物などを人工膜や腹膜を介して「透析液」に移します。この透析液は1回の透析で100L以上の量を使用することになりますが、気になるのは透析液の「質」ではないでしょうか。

 膜を介するとは言え、血液中の水分や物質を移動させる関係にある以上、質のよくわからない透析液を自分の血液に関わらせたいとは思わないはずです。透析患者さんは、自分が頻繁に関わることになる透析液の質について理解していないと、安心して透析治療を受けられないでしょう。

 そこで、医療現場において使用されている透析液の質が、どのようにして守られているかについて解説します。

人工透析と透析液

人工透析の仕組みをおさらい

 まず最初に、透析液のことについて理解しておくために、人工透析の仕組みについて簡単に説明しておきます。

 人工透析の目的は、腎機能が低下したことによって損なわれている人体の機能の一部を、人工的に補う治療方法のことです。血液透析の場合、ダイアライザーに送り込まれた血液から無数の小さな穴の空いた透析膜を通して、透析液に対して血液中の老廃物や電解質、余分な水分を送り出します。その後、透析の完了した血液は体内に戻されていき、老廃物を取り出し終わった透析液も新しいものに交換されていきます。

透析液の役割

 透析液は、透析患者さんの血液中に残留している余分な水分や老廃物を取り除くために使用されます。また、取り除くだけでなく逆に補うために使用されており、カルシウムや重炭酸イオンなどの一部の物質を透析液から血液中に補充します。

透析液は、製薬会社が製造している人工透析用薬(透析原液)を、透析現場において溶解・希釈して使用されています。本来であれば患者さんごとに合わせた透析液を用意するべきではあるのですが、それではあまりにも煩雑になるため一般的には誰にでも使用できる調整の施された透析液が使用されています。

透析液の主な成分

  • カルシウム
  • 重炭酸(炭酸水素)
  • ナトリウム
  • カリウム
  • カルシウム
  • マグネシウム
  • クロール
  • ブドウ糖

日本透析医学会の透析液水質基準

背景と目的

 日本の従来の透析液の水質基準は、1995年に提示されてから数度に渡って改定が行われています。しかし従来の基準はエンドトキシンのみが改定されており、細菌に関しての明確な基準は示されていませんでした。諸外国では細菌検出に重きをおいた基準が示されており、日本透析医学会においてもその基準に基づいた水質基準が示されるようになりました。

 2008年に示された水質基準もまた、生物学的汚染物質のみが示され、化学的汚染物質に関するものは示されていませんでした。管理の基本は原水および透析用水作成装置に依存しており、この状況を鑑みてそれらの管理基準を加えた水質基準の改定が行われました。

生物学的汚染基準

生物学的汚染基準の到達点

・透析用水:生菌数100 CFU/mL未満、ET0.050 EU/mL未満
・標準透析液:生菌数100 CFU/mL未満、ET 0.050 EU/mL未満
・超純粋透析液:生菌数0.1 CFU/mL未満、ET 0.001 EU/mL未満(測定感度未満)

測定方法等

測定方法

ET:リムルス試験法、同等の感度を有すると証明されたものについて使用可能
生菌検出:R2A(Reasonerʼs Agar No2)とTGEA(Tryptone Glucose Extract Agar)寒天平板培地を基本とするが、同等の感度を有すると証明されたものについては培養法に限らず使用可能
培養条件:R2AとTGEAを用いる場合には17~23℃、7日間

採取部位

・透析用水:透析用水作製装置の出口後
・透析液:透析器入口
・オンライン補充液:補充液抽出部位

採取日

消毒の影響による水質の過大評価を避けるため、薬液消毒・熱水消毒などの工程から最大間隔を空け、最も汚染リスクが高いと思われるタイミングに行う

測定頻度

・透析用水:3か月ごと(基準値を遵守している場合)、基準を満たしていない場合は 1か月ごと
・標準透析液:毎月、少なくとも末端透析装置1基以上が試験され各装置が少なくとも年1回試験されるように装置を順番に測定する
・超純粋透析液:透析装置製造業者によってバリデーションされた機器を使用する場合には、その使用基準に従う。さらにオンライン補充液を作製する透析液ではET・生菌はシステムが安定するまでは2週間ごと、透析機器安全管理委員会によってシステムが安定されたと判断された後は、毎月少なくとも末端透析装置1基以上が試験され各装置が少なくとも年1回試験されるように装置を順番に測定する
・オンライン補充液:透析装置製造業者によってバリデーションされた機器を使用し、その管理基準に従わなければならない。さらにオンライン補充液を作製する透析液は超純粋透析液基準に従う

各透析液基準の適応される透析条件

・標準透析液:血液透析を行う場合の最低限の水質
・超純粋透析液:オンライン補充液を作製する透析液、逆濾過透析液を積極的に用いる透析装置(全自動透析装置など)、プッシュアンドプルHDF透析装置、内部濾過促進型透析、基本的にすべての血液透析療法に推奨される
・オンライン補充液:オンラインHDF/HF

安全対策

 透析液ならびに透析装置の管理は、適切な管理マニュアルに基づいて行われなければならないと規定しています。そのため医療機器安全管理責任者は、自己の施設の透析装置のバリデーションを行う必要があるとしています。その上で以下の整備を行うと規定しています。

①透析教育修練カリキュラムの整備
②透析液管理マニュアルの完備
③管理記録、測定記録を作成、診療録に準じて保管する。関係文書は作成の日から3年間または有効期間に加え、1年間は保存されなければならない
④透析装置および透析液水質管理のために医療機器安全管理責任者の下に透析機器安全管理委員会を設置し、以下を行う
・透析装置の管理計画を立て、適切な保守管理を実施し報告書を管理保管する
・職員への適正使用のための研修会を開催する
・関連医療情報の一元管理と使用者への周知徹底し、またアクシデント情報を管理者へ報告する
⑤オンライン補充液は透析液製造者によってバリデートされた装置においてのみ使用可能である。さらに上記委員会による安全性の保証の下で使用される必要がある

科学的汚染基準

各物質の数値

第1グループ(透析での毒性が報告されている汚染物質)

物質名称

透析用水科学的汚染基準

水道水質基準

アルミニウム

0.01mg/L

0.2mg/L

総塩素

0.1mg/L

基準なし

0.1mg/L

1mg/L

フッ素化合物

0.2mg/L

0.8mg/L

0.005mg/L

0.01mg/L

硝酸塩

2mg/L

10mg/L

硫酸塩

100mg/L

基準なし

亜鉛

0.1mg/L

1mg/L

第2グループ(透析液に通常含まれている電解質)

物質名称

透析用水科学的汚染基準

水道水質基準

カルシウム

2mg/L

300mg/L

マグネシウム

4mg/L

300mg/L

カリウム

8mg/L

基準なし

ナトリウム

70mg/L

200mg/L

第3グループ(透析用水中の微量元素)

物質名称

透析用水科学的汚染基準

水道水質基準

アンチモン

0.006mg/L

0.02mg/L

ヒ素

0.005mg/L

0.01mg/L

バリウム

0.1mg/L

0.7mg/L

ベリリウム

0.0004mg/L

基準なし

カドミウム

0.001mg/L

0.003mg/L

クロム

0.014mg/L

0.05mg/L

水銀

0.0002mg/L

0.0005mg/L

セレン

0.09mg/L

0.01mg/L

0.005mg/L

基準なし

タリウム

0.002mg/L

基準なし

化学的汚染物質の管理

透析用水作製装置設置時

①供給水源(水道事業または専用水道)の公表値もしくは測定値を確認する
②原水の化学的汚染物質を測定し、水道水質基準に合致していることを確認する
③透析用水の化学的汚染物質を測定し、化学的汚染基準未満であることを確認する
④透析用水で化学的汚染基準以上の化学的汚染物質が検出された場合には透析用水作製装置の点検が必要であり、基準未満になるまで装置の再構成を検討する
⑤透析用水の化学的汚染物質が化学的汚染基準未満であっても、原水の化学的汚染物質が化学的汚染基準以上の場合は、今後年1回程度、透析用水の当該化学的汚染物質の濃度を測定することが望まれる

日常の管理

「水道法による規制」に基づいて供給される原水を用いる場合
①供給水源(水道事業または専用水道)の水質検査結果を季節ごとに確認する
②供給水源の水道水質基準に含まれている物質が化学的汚染基準以上の場合には、
1,化学的汚染物質の供給水源の水質検査結果を注視する
2,各施設の「透析機器安全管理委員会」にて汚染の可能性があると判断された場合には、透析用水中の当該化学的汚染物質を年1回は測定しなければならない
3,透析用水で化学的汚染基準以上の物質が検出された場合には透析用水作製装置の点検が必要であり、各施設の「透析機器安全管理委員会」の責任において基準未満になるまで装置の再構成を検討しなければなら ない
4,RO膜で阻止が困難な化学的汚染物質としては硝酸・亜硝酸塩などがある

「水道法による規制を受けない水道」を原水として用いる場合
①水道法に従い水質検査計画を策定し、その計画に則り適切に検査を行い、原水の水道水質基準を担保する
②原水が水道水質基準を担保している場合には「水道法による規制に基づいて供給される原水」と同様の管理を行う
③原水が水道水質基準を担保していない場合(物質の欠落がある場合も含む)には、
1,透析用水作製装置の性能を調べるとともに、原水・透析用水中の化学的汚染物質を年1回は測定しなければならない
2,透析用水で化学的汚染基準以上の化学的汚染物質が検出された場合には透析用水作製装置の点検が必要であり、各施設の「透析機器安全管理委員会」の責任において化学的汚染基準未満になるまで装置の再構成を検討しなければならない

災害時・緊急時

 災害時・緊急時には供給水源の水質汚染の可能性があるため、透析用水作製装置の注視・管理を行い、さらに可能となった時期に原水・透析用水中の化学的汚染物質の測定が望まれる

その他の規定

 日本透析医学会の基準においては、他にも「残留塩素濃度測定」「透析用水作成装置に関する管理基準」などが規定されています。

引用:一般社団法人日本透析医学会 ガイドライン 2016年版透析液水質基準
http://www.jsdt.or.jp/dialysis/2094.html

透析液水質基準達成のための手順書

 公益社団法人「日本臨床工学技士会」は、日本透析医学会の監修のもとで「透析液水質基準達成のための手順書」というガイドラインを公開しています。これは日本透析医学会の提示する水質基準を受けて、2017年に公表されているものです。

手順書策定の目的は、透析液を供給するまでのすべての過程において恒常的に「清浄化」を達成することです。日本透析医学会の水質基準を基準として、臨床現場で達成するための手順が示されています。

手順書の適用範囲等

  • 適用範囲:急性、慢性血液浄化療法において、施設内で透析液を作成・使用する施設
  • 性能:血液浄化療法に必要な清浄化された透析液を供給できること
  • 適用除外:在宅血液透析(指導・管理する医療施設の管理基準に従う)
  • 管理基準:「2016年版透析液水質基準」に準ずる

手順書に記載されている「清浄化の実際」一覧

生物学的汚染基準

①ET活性値
②生菌数検査法
1,平板表面塗抹培養法
2,メンブランフィルタ(MF)法
3,迅速検出法
③コロニー数の計測と記録
④採取部位と採取方法
1,透析用水の採取
2,透析液の採取
3,多人数用透析液供給システムの各部での採取
⑤採取日
⑥測定頻度(ET、生菌)

化学的汚染基準

①化学的汚染物質の管理:透析用水作製装置設置時
②化学的汚染物質の管理:日常の管理
1,「水道法による規制」に基づいて供給される原水を用いる場合
2,「水道法による規制を受けない水道」を原水として用いる 場合

透析用水と関連装置の管理

①プレフィルタ
②硬水軟化装置(軟水装置)
③活性炭ろ過装置
④ROユニット
⑤紫外線殺菌灯
⑥RO 水タンクと配管
⑦UFモジュール
⑧個人用透析用水作製装置

透析液と関連装置の管理

①多人数用透析液供給装置、B透析液原液(B原液)タンク、A透析液原液(A原液)タンク
②B原液供給システム
1,B原液タンクが手動溶解方式(B粉末剤)の場合
2,B粉末剤溶解装置を使用する場合
3,リキッドタイプを使用する場合
③A原液供給システム
1,A原液タンクを使用する場合
2,A粉末剤溶解装置を使用する場合
④透析液配管と消毒方法
⑤ET Retentive filter(ETRF)
⑥カプラ
⑦洗浄・消毒剤
⑧透析関連装置の新規導入時と部品交換(修理)後の消毒
⑨個人用透析装置
⑩オンラインHDF/HF装置

引用:公益社団法人日本臨床工学技士会 2016年版透析液水質基準達成のための手順書 Ver 1.01
http://www.ja-ces.or.jp/ce/wp-content/uploads/2017/07/e82fb78042c4ace6556f0b3036155c99.pdf

医療機関ごとに水質管理の取り組みが異なる

 透析液の水質管理については、前述の基準が規定されています。しかし、どの医療機関においても同じ水質の透析液を利用するというわけではありません。透析液の水質管理については、医療機関ごとにその取り組みが大きく異なります。

 こうした取り組みについては、各医療機関のホームページにおいて、人工透析や血液透析のページに掲載されていることが多いです。「基準をクリアしている」「基準よりも厳しい水準で管理している」などの記述がなされています。

 透析液の水質が気になっている人は、医療機関のホームページを確認してみてください。また、ホームページに記載がない場合や記載されている内容だけでは納得できないという場合は、医療機関に問い合わせてみてください。

透析液の水質は規定されている

 このように、透析液の水質は明確な基準が設けられており、その達成のためのガイドラインも提示されています。これに則っている限り、透析液の水質は安全なものが守られるということです。

 各医療機関の取り組みについては、提示されている基準よりも厳しい場合もあります。医療機関のホームページにはその情報も掲載されていますので、安心して人工透析を受けたい人はチェックしてみてください。

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