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腹膜透析導入早期に起こりやすいトラブルとは?

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 人工透析には、大きく分けて「血液透析」と「腹膜透析」の2種類の方法が存在します。腹膜透析は血液透析と比較してマイナーではあるのですが、通院回数が少ないなどのメリットがある方法でもあります。

 しかし、通院回数が少ないということは、それだけ医療機関での関わりが少ない方法でもあります。それゆえに患者さんにとって予想外となるさまざまなトラブルが発生する可能性がある方法でもあり、腹膜透析を選択する患者さんはトラブルについて事前に理解を深めておく必要があります。

 そこで、腹膜透析の導入早期に発生しやすいトラブルについて解説します。

腹膜透析とは

 まず最初に、腹膜透析とはどのようなものであるかについて解説しておきます。腹膜透析は、人工透析の一種です。冒頭でも述べていますが、人工透析は大きく分けて「腹膜透析」ともう一つ、「血液透析」という方法があります。

 腹膜透析は、腹部にある「腹膜」を利用して透析治療を行います。腹部に外と中をつなぐカテーテルを用意し、腹部に透析液を注入して透析を行う方法です。透析液は数時間お腹の中に入れたままにして、1日に4~5回、透析液の注入と排出を行います。

 もう一つの方法である血液透析は、血液を循環させながら、体の外でダイアライザーを介して血液の浄化を行う方法です。ダイアライザー内で人工膜を介して、透析液と水分や物質の交換を行います。在宅血液透析を除き、週に3~4回のペースで医療機関において透析を行います。

カテーテルの閉塞

 透析液は、注入も排出もカテーテルを通じて行われます。そのため、カテーテルが何らかの理由で閉塞を起こしてしまえば、新たに透析液を注入することも、使用済みの透析液を排出することも難しくなってしまいます。

カテーテル閉塞の原因

 カテーテル閉塞の原因として考えられるのは、第一にカテーテルや接続チューブに屈曲が起こっていることです。第二に「フィブリン」という血液の凝固に関係するタンパク質などによって、カテーテルが詰まってしまっているケースです。他にも便秘が原因でカテーテル閉塞を起こしているケースも考えられます。

カテーテル閉塞への対処

 カテーテル閉塞が判明したら、まずは腹膜透析における操作等にミスが無いかどうか確認します。カテーテル位置に問題がある場合、排液時の体位を変えてみたり、飛び跳ねることで正常な位置に戻ることが多いです。

フィブリン等による閉塞の場合、「ヘパリン」「ミルキング」を注入します。また、注入時にバッグに圧をかけて透析液を勢いよく注入することで、フィブリンや凝血塊を取り除くという方法があります。

カテーテルの損傷

 カテーテルは相応の強度で作られていますが、使用する以上は「損傷」のリスクもつきまとうことになります。当然ながら、損傷したカテーテルでは安全な透析液の注排出を継続することは難しいです。

カテーテル損傷の原因

 カテーテルが損傷する原因はいくつか考えられます。「カテーテルの誤切断」や「ラジオペークラインの亀裂」などが考えられますが、長期使用が必ずしもカテーテル損傷の原因となるわけではなく、腹膜透析導入早期に発生することも十分に考えられます。

カテーテル損傷への対処

 損傷したカテーテルをそのままにしておくわけにはいきません。早めに医療機関を受診して、カテーテルの交換を行います。損傷しているのが回路接続部であれば、カテーテルの遮断後に接続部の交換が行われます。

腹膜透析後に起こりうる合併症

 腹膜透析を行うにあたっては、その特性上いくつかの「合併症」を引き起こしてしまう可能性が考えられます。

腹膜炎

 腹膜炎は、腹腔の内部に細菌が感染して炎症を引き起こす病気です。急性腹膜炎では、突然の激しい腹痛が起こることが多いです。

腹膜炎の原因

 透析による腹膜炎の合併の原因はいくつか理由が考えられます。まず第一に透析液交換時のミスであり、清潔が保てないことで細菌感染を引き起こします。第二にカテーテルの破損や接続部に緩みが生じ、そこから細菌が感染することです。第三に自分の腸などから腹部に細菌感染するケースです。

腹膜炎と腹膜透析の関係

 腹膜透析の合併症としての腹膜炎は、腹膜透析においてしばしば発生する重篤な合併症です。腹膜透析患者さんのうち、約5%と決して高いとは言えない発症率であるとされていますが、腹膜透析を受けている患者さんの約16%の死亡の直接的な原因あるいは誘引となり得る要因であるとされています。

また、遷延した場合や重篤な場合には腹膜の構造や機能に大きな変化を及ぼす可能性が考えられます。長期間の継続ができない腹膜透析の離脱の要因の一つであり、腹膜炎の発症を原因として血液透析に移行を余儀なくされるケースも珍しくありません。

腹膜炎の予防法

 腹膜透析において腹膜炎を予防するためには、まず基本として腹膜透析のバッグ交換の際に清潔さを保つことです。バッグ交換時の感染を予防するために交換時に手洗いを必ず行い、マスクを着用してください。また、バッグを交換する際の部屋の掃除をこまめに行い、環境を清潔に整えることが重要です。

出口感染・トンネル感染

 腹膜透析では、透析液の注入と排出のために「カテーテル」を留置します。出口感染やトンネル感染は、このカテーテルの出口部や皮下トンネルの部分に細菌感染が起こる合併症です。

出口感染・トンネル感染の原因

 出口感染やトンネル感染を引き起こす原因は、カテーテル出口部が清潔に保たれていないことが第一に考えられます。また、カテーテルを無理やり引っ張ったり、ひっかき傷や切り傷を放置していることも感染の原因となります。もしくは、保護のためにテープや消毒液を使用していて、それによってかぶれている可能性も考えられます。

出口感染・トンネル感染の予防法

 出口感染やトンネル感染の予防法ですが、やはり未然に防ぐ事を第一に考えておきたいところです。こまめにカテーテル出口部の状態を確認しておき、異常が見つかったら早めに医療機関で診てもらってください。

 カテーテル出口部のケアを行うことも重要な予防法となります。出口部の負担を最小限に抑えるために、カテーテルの固定について注意を向けておいてください。その際、テープの使用等ではさみなどを使用する際には、間違って出口部を傷つけてしまわないように注意してください。テープや消毒液でかぶれている場合は放置せず、自分にあったものに交換するようにしてください。

被嚢性腹膜硬化症

 被嚢性腹膜硬化症は、腹膜透析で発症する恐れのある合併症の一つであり、最も重篤な合併症であるとされています。腹膜透析において重要な役割を担っている腹膜が厚くなり、腸の動きが阻害されてしまいます。これがさらに進行してしまうと腸の癒着を引き起こし、「腸閉塞」という病気を合併してしまいます。

被嚢性腹膜硬化症の原因

 被嚢性腹膜硬化症の発症原因は、長きに渡って腹膜透析を継続したことにあります。透析液により腹膜が劣化し、さらに腹膜透析において重要な要素の一つである「残腎機能」が低下したことによる尿毒素症状も原因の一つとして数えられています。

 腹膜透析を開始してから短期間の場合でも被嚢性腹膜硬化症を発症する可能性があります。その場合は前述の「腹膜炎」の合併が大きな要因となっている可能性が高いです。腹膜透析導入早期の場合は特に腹膜炎の合併が深く関わっている可能性がありますが、発生機序は複雑に入り組んでいると言わざるを得ません。

被嚢性腹膜硬化症の予防法

 腹膜透析導入早期であれば、腹膜炎の合併が大きな要因となります。そのため、腹膜炎の予防のための管理が重要になります。また、腹膜の劣化も大きな要因となりますので、定期的に腹膜機能検査を受けるようにしてください。もし腹膜機能が劣化している場合には、早めに血液透析への移行を検討しましょう。

除水不全

 除水不全とは、透析の目的の一つである「余分な水分を取り除く」ことが十分にできていない状態です。適正な透析が行われているにもかかわらず、2.5%透析液2リットル4回あたりの除水量が500ml未満の場合、除水不全であるという基準があります。腹膜透析の導入初期から症状が見られることもありますが、多くの場合は透析期間の進行とともに症状が増加傾向にあります。

除水不全の対処法

 除水不全が確認された場合、塩分摂取制限や利尿剤の投与によって対処します。他にも透析液を貯留させる時間を短くしたり、透析液の種類を変更するといった対処法も考えられます。

腹膜透析手術早期の合併症

 腹膜透析を始めるためには、カテーテル留置のための手術が必要になります。手術後の早期には以下のような合併症が特に発生しやすいとされています。場合によっては再手術を必要とする場合もありますので、異常を感じたら早めに医療機関を受診してください。

臓器の穿孔

 手術の特性上、腸管や膀胱などの臓器に穿孔(穴が空くこと)が起こる可能性があります。特に手術において「スタイレット」を使用している場合に穿孔が起こる可能性が考えられます。

腹腔内での出血

 腹腔内で、何らかの理由で出血が発生します。主な理由としては前述の腸管の穿孔や胃十二指腸潰瘍、膵炎などが考えられます。排出した透析液が赤くなり、僅かな出血でも透析液が濃い赤色に変色します。ただし女性の場合であれば、月経や排卵による影響である可能性も考えられます。

腹痛

 腹膜透析導入早期の腹痛は、主に手術後の創痛や、注排液時の疼痛が発生することが考えられます。両者とも腹膜透析を続けていくことで軽減されることが多いですが、いつまでも痛みが生じている場合には別の原因(内蔵やカテーテルの損傷など)が考えられます。

長く腹膜透析を続けるために早めの対処を

 腹膜透析に限らず、こうした医療行為は最初期にさまざまなトラブルが待ち受けている可能性が考えられます。特に腹膜透析の場合はトラブルの発生で透析を継続できる期間が短くなってしまう可能性が考えられるので、最小限の被害に抑えたいところです。

 原因が何であれ、何か異常を感じたら早めに医療機関で診てもらうことをおすすめします。場合によっては再手術や別の手術を必要とする事態になっている可能性も考えられるので、我慢すれば問題ないと考えるのではなく、結果が杞憂に終わるとしても医師に確認してもらうことが重要なのです。

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