透析原因・

腎臓は、“沈黙の臓器”。進行しないと自覚症状は現れない!?

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近頃、健康に関する番組などで人工透析や腎臓病に関する特集をよく目にするようになってきました。
日本人の「食生活の欧米化」や「喫煙と飲酒量の増加」、「運動不足」、「精神的ストレスの増大」などによって生活習慣病が年々増えています。生活習慣病が進むと腎臓に影響を与えたり、腎臓病のきっかけになったりすることがあります。生活習慣病の増加と共に慢性腎臓病の患者さんの数も年々増えてきています。
わが国の慢性腎臓病の患者さんの数は、1,330万人いるとされています。国民の8人に1人は、慢性腎臓病を患っており新たな国民病と言われています。

腎臓は、沈黙の臓器?

慢性腎臓病は、腎臓の機能の状態によって5段階に分類されます。腎臓の機能が低下していてもかなり進行した段階になるまで、ほとんどの人が何も自覚症状を感じていません。腎臓の機能がゆっくりと低下している場合は、末期の状態になっても自覚症状を感じていない方は多くいらっしゃいます。
胃に不調がある人は、「胃かムカムカする」や「胃が痛い」などの自覚症状を訴え病院を受診します。しかし、慢性腎臓病の患者さんで自覚症状を訴える人はほとんどおらず、「血圧が高くて検査したら腎臓が悪かった」など、検査を受けて腎臓の機能が低下していることに気付く方がほとんどです。
腎臓の機能が30%未満で無症状~軽度の自覚症状を感じ、15%未満で尿毒症症状やむくみなどの症状を感じるため、腎臓は“沈黙の臓器”といわれています。

<慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease)病期>

※eGFR値(推定糸球体濾過量)…血清クレアチニン値と年齢・性別を用いて算出し、腎機能の指標として使用しています。【NPO法人 腎不全サポート協会 腎不全とその治療法より引用】

腎臓の機能が低下すると、体の中ではより早い段階から重要な変化が起こっています。一般的に腎臓の機能が中等度低下したころから、貧血や血圧の上昇が起こり始めます。また、骨が溶けるとともに血管の石灰化による動脈硬化が進行します。
腎臓の機能が低下していることに気付いた時には、人工透析が必要ということも少なくありません。

今回は、腎臓病の自覚症状についてご説明していきたいと思います。

腎臓の働きとは?

尿をつくる

①血液中の老廃物を排出する

 心臓から送り出される血液の1/4~1/5の血液が腎臓に流れ込みます。腎臓に入った血液は、毛細血管が毛糸玉のようになった「糸球体」と呼ばれる場所で濾過されます。糸球体で濾過されてできる濾過液の量は、1日に約150L(ドラム缶1本分)にもなります。
腎臓では、濾過液をさらに必要なものと不要なものとに分け、不必要になった血中の老廃物を尿として体の外へ排出します。

②水分、塩分のコントロール

 日によって摂取する水分や塩分の量は異なります。腎臓では、摂取した分の水分と塩分を尿として体の外へ排出することで、体の中の水分と塩分の量を一定に調節しています。

③電解質(カリウム・カルシウム・リンなど)の調整

 血液中の電解質(カリウム・カルシウム・リンなど)の量を調整します。余分な電解質を尿より体外へ排出することで体の中の電解質のバランスを調整します。

④酸塩基平衡(pH)の維持

 体の中では、常に代謝活動が行われており、その時に酸性の物質が産生されます。酸を体の外へ排出しなければ血液が酸性になってしまい生命は維持できません。腎臓では血液の酸性度をpH7.4の中性に保つよう調整を行っています。

ホルモンを作る

①血圧を調整する

 腎臓では、体の中の水分と塩分の量を調節することで血圧を調整しています。また、腎臓は、血圧を上昇させるホルモン(レニン)を分泌することで血圧の調整を行っています。

②造血ホルモンをつくる

 腎臓では、造血(血をつくること)を刺激するエリスロポエチン(EPO)をつくります。出血や貧血、低酸素状態などで血液の酸素濃度が低下すると、腎臓はそれを感知してEPOを産生し、血液中に放出します。EPOは、骨髄に働いて血液(赤血球)の産生を刺激します。

③活性型ビタミンDをつくる

 食事で摂ったカルシウムは、腸で吸収されて体内に入ります。この時に活性型ビタミンDがないと効率よく吸収できません。腎臓ではカルシウムを体内に吸収させるのに必要な活性型ビタミンDをつくっています。

以上のように腎臓には、たくさんの機能があります。腎機能が低下するとこれらの働きが
できなくなり、腎臓の機能が30%以下になってくると様々な症状があらわれるようになり
ます。

腎機能が低下した時に起こる自覚症状とは?

腎臓病が発症した初期症状の出方には、大きく分けて2通りあります。

①急性症状タイプ:急に浮腫(むくみ)がでたり、尿が混濁したり、高血圧あるいは尿量減少をきたします。

②無症状タイプ:自覚症状は何もない。

大部分の腎臓病は、無症状タイプで発症しても無症状で、かなり進行しないと何の症状もでません。
 進行して末期になって、はじめて身体の不調など色々な症状が出てきます。そのため、腎臓病は静かに発症し、静かに進行しているのです。腎機能が正常の30~50%以下に低下してくると、まずむくみや高血圧が出ることが多いのです。糖尿病性腎症では、むくみがとくにでやすいようです。しかし、腎機能が正常の20%ぐらいに低下しても何の症状も出ないことも多くあります。

むくみ

 腎臓の機能が低下すると体内の余分な水分や塩分が十分に排泄されず、体の中に余分な水分が溜まった状態になります。体に溜まった余分な水分により足・手・顔などがむくみ(浮腫)パンパンに腫れてしまいます。

①足のむくみ
  身体の中でむくみがもっとも多くみられる部位です。重力の影響でむくみは足の下の方に出やすくなっています。足にむくみが出ると足の甲が腫れ、靴がきつくなったり、靴下の跡が妙にくっきりとくぼんでつきます。むくみがひどくなると太もものあたりまで腫れてきます。長時間横になって寝ていると足の浮腫みが軽減するのはよくあることですが、これはむくみが軽減したわけではなく、重力により水分が足から背中や顔の方へ移動しただけのことが多いのです。

②顔のむくみ
  顔のむくみは、目の周りに出やすいものです。まぶたが腫れぼったくなったり、小じわが目立たなくなったりします。顔のむくみの特徴は、朝の起床時に現れる多いということです。

③手のむくみ
  指輪がきつくなったり、手が握りにくくなるといった症状があります。

④腰・背中のむくみ
  腰や背中にむくみが出ることは通常ほとんどありません。足の浮腫みが著しくひどくなった場合に腰や背中までむくみが出ることがあります。横になって寝ている時間の多い人は、重力の関係で足よりも腰や背中にむくみがでます。

⑤陰部のむくみ
  太ももや腰、背中にまでむくみがでるような時は、陰嚢や陰唇にもむくみがでて腫れることが多くあります。

⑥胸水、腹水
  健康な時には、胸やお腹に水が溜まることはありません。しかし、身体の中の水分が過剰な時は胸やお腹に水が溜まります。胸に溜まる水分が多くなると呼吸困難になります。また、お腹に溜まる水分が多くなるとお腹が膨れて張る症状がでます。

⑦内臓のむくみ
  肺や肝臓、心嚢(心臓の周り)、胃腸などにもむくみがでることがあります。内臓がむくむと事は重大です。肺水腫では呼吸困難をきたし、心嚢のむくみは心不全を起こす危険が迫り、胃腸のむくみは消化管出血を起こして下血を起こすなど直接生命にかかわることもあります。

しかし、浮腫は腎臓の機能の低下以外の原因でも起こります。むくみが毎日続く時や呼吸困難感などの症状がある場合は、注意が必要です。

体重増加

 体重は、脂肪や筋肉の増減だけでなく、体の水分量の増減によっても変化します。数日間で急に体重が増えたときは、体の水分量がコントロールできず余分な水分が溜まっていることが考えられます。この場合、むくみを伴います。

高血圧

 腎臓の機能が低下すると、体の中の余分な塩分と水分を排出できなくなります。身体の水分が増加すると血管内の血液量も同時に増加します。これにより血圧の上昇が起きます。また、腎臓が分泌する血圧を調整するホルモン(レニン)が過剰に分泌され血圧が上昇します。

血尿

 血尿とは、尿に血が混じっていることを言います。血尿の原因は、大きく分けて腎臓にある糸球体という濾過装置の異常(糸球体性血尿)と糸球体以外の腎臓・尿路・膀胱の異常(非糸球体性血尿)の2種類あります。
 腎臓にある糸球体という濾過装置に障害が起きている場合の血尿の特徴
①感冒にかかっているときや、そのあとに起きる
②1~数日で消える
③繰り返すことがある

尿の異常

 毎回尿が泡立ち、泡がなかなか消えない場合などは、たんぱく尿の可能性が高いです。腎臓にある糸球体が障害されているとたんぱく尿になります。毎日尿を観察していると違いに気づきやすくなるので観察する習慣をつけましょう。
 また、夜間に何度もトイレに行くといくのも慢性腎臓病が進行すると出てくる症状の1つです。

尿量の増減

 腎臓の機能が低下してくると尿を濃縮することができなくなり、尿量が多く(多尿)なることもあります。
 しかし、腎臓病が進行すると、尿をつくることができなくなり尿量が減ります。さらに腎臓病が進行し、腎臓が全く機能しなくなると尿はつくられなくなります。

貧血

 健康な人でも赤血球は一定の寿命があり常に壊れていきます。腎機能が低下すると造血(血液を作ること)を刺激するエリスロポエチンの分泌量が減ることで貧血になります。
そのため、立ちくらみなどの貧血症状がたびたび起きるようになります。

これらの症状がある場合は、腎臓の機能が低下してきていることが考えられます。重要な役割を担う腎臓に長く働いてもらうには慢性腎臓病に早く気づき生活改善や治療を開始することがとても大切です。

腎不全が進むと現れる症状とは?

尿毒症

 血液中の老廃物のことを「尿毒素」といいます。腎臓の機能が正常の15%以下ぐらい低下すると尿毒素が十分に排泄できず体に貯まります。そのため神経症状や消化器症状、出血傾向などの様々な症状が現れます。この状態のことを「尿毒症」といいます。尿毒症の初期症状としては、まず食欲不振や吐き気が出てくる人が多いようです。

<尿毒症症状>
 【脳】不眠、頭痛、けいれん、眠気、集中力低下、意識低下、意識障害、イライラ感
 【眼】視力障害、眼底出血
 【口】口臭(アンモニア臭)、口内炎、歯肉出血、味覚異常、金属様の味
 【顔】むくみ、黄土色、貧血様
 【心臓】心肥大、心不全、心膜炎、動悸、高血圧、不整脈
 【肺】咳、息苦しさ、肺水腫、胸水、大きな呼吸になる
 【血液】尿素窒素・クレアチニン・カリウム上昇、貧血、酸性になる、免疫力低下
 【腎臓】尿量減少
 【胃腸】食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、潰瘍、消化管出血
  これらの症状は、栄養障害となりカロリーも取れず一層腎不全が進行する可能性があります。
 【皮膚】皮下出血、むくみ、色素沈着、かゆみ
 【末梢神経】感覚異常、手の震え、運動障害
 【骨・関節】低カルシウム血症、高リン血症、骨病変、痛風発作
 【その他】成長障害、性機能障害、甲状腺機能障害、高脂血症、耐糖能低下

腎臓病を早く見つけるためには?

重要な役割を担う腎臓に長く働いてもらうには、腎臓の機能低下に早く気づき生活習慣や適切な治療を開始することがとでも大切です。気付いた時には、人工透析が必要ということならないためにも定期的に健康診断を受け尿検査や血液検査、血圧測定を行うことが早期発見につながります。また、毎日の尿の状態やむくみの有無を観察することも早期発見につながります。

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