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透析日の1日のスケジュールとは?

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 腎機能が著しく低下してしまった人は、長きに渡って人工透析を必要とする生活を送ることになります。言い換えれば日常生活に人工透析が加わることになるのですが、これから透析治療を受ける人にとっては「どんなスケジュールで透析を受けるのか」「日常生活のスケジュールはどのように構築すべきなのか」ということが不安になるのではないでしょうか?

 1回2回程度であればまだしも、これから長く人工透析と付き合っていくにあたっては、どういった生活スタイルに変わるのかということを知りたいはずです。透析治療への不安を取り除き、長く人工透析と付き合っていくために、透析日の1日のスケジュールについて解説したいと思います。

人工透析の種類とスケジュールの違い

 人工透析は大きく分けて「血液透析」と「腹膜透析」に分けられます。透析の方法が大きく異なりますので、当然ながらスケジュールも大きく異なります。それぞれのスケジュールを理解することも、透析治療の種類を選択するにあたって重要なポイントになります。

血液透析のスケジュール

 人工透析は、患者さんの多くが「血液透析」を受けています。人工透析を始めるにあたっては、血液透析のスケジュールの特性を理解することが重要になります。医療機関によって細かい部分は異なりますが、おおまかな流れとしては以下のとおりです。

①病院に通院する

 「在宅血液透析」を除き、血液透析は医療機関において治療を受けることになります。あらかじめ決められた通院予定を守り、時間に余裕をもって通院してください。通院しやすい医療機関を選ぶことも重要なポイントになります。

②着替え

 血液透析を受けるにあたっては、血液透析を受けやすい服装に着替える必要があります。一般的にはパジャマなどの服装に着替えるので、持参が必要な場合は忘れないようにしましょう。医療機関によって対応は異なりますが、通院時の服装によっては着替えずに血液透析を開始できる場合もあります。

③シャント腕の洗浄

 着替えが終わったら、シャント腕を洗浄します。血液透析においては後述の「穿刺」が2本分必要であり、シャント腕が汚れていると細菌感染のリスクが高まります。感染後の症状次第ではシャントを作り直さなければならなくなるため、入念に洗っておきましょう。

④体重の測定

 血液透析においては「体重測定」が重要です。人工透析においては血液中の余分な水分を取り除くのですが、どれだけ除水するかは「透析開始時の体重」と「設定されているドライウェイト」の差によって決まります。つまり血液透析開始前の体重測定は、除水量を決めるための要素なのです。

⑤ベッドへの移動と血圧測定

 体重測定が終わったら、血液透析用のベッドまで移動します。ベッドに移動したら、血圧を測定します。透析中は血圧の変動が起こりやすく、適宜血圧を測定することになります。

また、体調の変化があれば担当スタッフが確認を行います。必要であれば、医師の診察を受けてから透析を開始することになります。体調の変化があれば、ちょっとしたことでも正直にスタッフに報告してください。

⑥穿刺して人工透析開始

 すべての準備が整ったら、透析を開始するための穿刺を行います。この針は「身体から血液を取り出すための針」と「透析が終わった血液を身体に戻すための針」の2本です。穿刺ができたら、透析装置のポンプを回して透析治療が開始されます。穿刺の状態は透析中、適宜確認が行われます。

⑦透析終了まで数時間

 血液透析は、患者さんによって異なりますが平均して4時間ほど時間をかけて行われます。その間、患者さんは基本的に透析用のベッドから自由に動き回ることはできません。医療機関によっては透析用のベッドごとに備え付けのテレビを視聴することもできますが、設備は医療機関ごとに異なります。

 平均4時間という時間をできる限りストレス無く過ごすために、暇をつぶす方法を用意しておくことをおすすめします。ベッドにいる状態でできることなので方法は限られるのですが、例えば「読書」であれば準備するものも少なくベッド上で行えることなのでおすすめです。

 透析治療初心者であれば、透析治療に関する不安や疑問を担当スタッフに確認することもおすすめですが、スタッフも忙しいので何十分も付きっきりになることは不可能であることは理解しておきましょう。ですが、これからお世話になり続けるであろうスタッフとのコミュニケーションは極めて重要であることも事実です。

⑧血液を戻してから針を抜いて止血

 透析が完了したら、残りの血液をすべて身体に戻します。血液を戻し終わったら、透析用の2本の針を抜いて、止血を行います。シャント部は血管が太くて血流量が多いので、きちんと止血できていることを確認します。

⑨透析室を退室し、再び体重測定

 きちんと止血されていることが確認されたら、透析室を退室します。その後、予定通り除水できているかどうかを確認するため、再び体重測定を行います。

⑩着替えてから帰宅

 透析開始時に着替えをしている場合は、体重測定後に通院時の服装に着替え直します。問題なければ、そのまま帰宅することができます。

さまざまな血液透析のスケジュール

 おおまかな流れは先ほど説明したとおりですが、血液透析には患者さんに合わせたさまざまなスケジュール構築の余地があります。詳しい内容については医療機関で相談する必要があります。

退勤後に通院するケース

 一般的なサラリーマンの透析患者さんの透析スケジュールです。日中は仕事に勤しんで、退勤後の18時~20時くらいに通院するケースです。通院の利便性を考慮して、通勤路線に近い医療機関で血液透析を受けるケースが多いです。

午前中に透析を済ませてしまうケース

 午前中に時間がある、定年後の透析患者さんに見られる透析スケジュールです。朝食後、医療機関の送迎車を利用して通院するケースもよく見られています。例えば9時に透析を開始すれば13時頃には完了するため、午後は丸ごと自由時間として使えるというメリットがあります。

午前中は自宅にいて、午後に透析を受けるケース

 こちらは逆に午前中は自由に使える時間にして、昼過ぎから血液透析を受けるために通院するスケジュール構成です。例えば午前中に集中して家事を行い、それが終わってから通院するというケースです。専業主婦であればスケジュールが構築しやすく、週を通して「午前は家事、午後は透析(透析日以外はプライベート)」と決めやすいです。

日中は仕事やプライベートに集中する夜間透析のケース

 このスケジュール構成は、午前午後ともに仕事やプライベートに集中したい人向けのスケジュールです。このスケジュール構成の場合、透析を受けるのは夜間、睡眠中です。睡眠中に透析を受けるので実質的な拘束時間が少なく、生活の効率が極めて良いというメリットがあります。また、長時間透析を受けられるというメリットもあります。

平日と休日で透析を受ける時間を変えるケース

 これまでのケースは、透析治療を受ける時間が週を通じて同じと言うケースですが、透析患者さんによっては日によって透析治療を受ける時間を変えるというケースもあります。

 わかりやすい例えだと土日が休日のサラリーマンで、平日は夕方の退勤後に通院して、休日は午前中に透析を受けに行くというスケジュール構成です。家族構成に合わせてスケジュールを組む余地があり、例えば休日は家族で外食に行くために午前中に透析を済ませておくといったスケジュール構築が可能です。

休日には透析を受けないケース

 また、「平日は透析、休日はプライベート」と明確に区分することもできます。平日の月水金の3日間を透析日に定めて、休日の土日は透析を受けずにプライベートを楽しむというスケジュール構成です。

休日だけ長時間透析を受けるケース

 時間に余裕がある休日にだけ長時間透析を受けるというスケジュール構成も可能です。平日は仕事の都合で長時間透析が受けられない代わりに、時間がある土日の透析日だけ長時間透析に充てることで、少しでも長時間透析のメリットを受けることが可能です。

在宅血液透析のスケジュール

 一般的な血液透析は、人工透析を受けられる医療機関に通院して治療を受けることになります。しかし、血液透析の中には医療機関に通院しなくても受けられるタイプが存在します。それが「在宅血液透析」です。

 在宅血液透析は、医療機関で利用する通常の血液透析を、自宅にいながら受けられる人工透析の方法です。利用のためには介助者とともに訓練を受けなければなりませんが、通院して受ける血液透析とは異なるメリットを享受できます。

在宅血液透析のスケジュール上のメリット

高頻度の通院が必要ない

 在宅血液透析では、こまめに医療機関に通院する必要がありません。そのため、通院にかかる時間を丸ごと排除することができ、自由に使える時間が増えることになります。また、通院において家族に送迎を依頼している人の場合、通院にかかる家族のスケジュール上の負担を無くすことにもつながります。

家族との時間を確保できる

 在宅血液透析は文字通り在宅つまり自宅にいながら血液透析を受ける方法です。同居する家族と一緒にいられる時間が、透析にかかる時間分だけ丸ごと確保できることになります。前述の通り通院にかかる時間もゼロになるので、通院にかかる時間+透析にかかる時間だけ在宅の時間が増えて、それだけ家族と過ごせる時間を確保できるのです。

透析中の暇つぶしの幅が広い

 血液透析は1回あたり平均で4時間の拘束時間があります。その間、読書などで時間をつぶすことになるのですが、在宅血液透析であれば暇つぶしに用いる手段の幅が広がることになります。医療機関に持ち込むのがためらわれる物や、医療スタッフや他の透析患者さんに見られるのが恥ずかしい物など、通院では用いることが難しい物でも透析の障害にさえならなければ何でも利用できます。

在宅血液透析のスケジュール上のデメリット

 しかしながら、通院して受けられる血液透析と比較してのデメリットも存在します。それは「介助者が必要である」ということです。

 医療機関で受ける血液透析の場合、必要な介助や機器の操作などは、全て医療スタッフに任せることができます。しかし医療スタッフがいない在宅血液透析の場合、家族に介助役を任せなければなりません。

 また、前述の通り介助者は透析患者さんとともに一定の訓練が必要になります。訓練と言っても厳しいものではなく必要な知識と技術を習得するものですが、少なからず時間と手間がかかることは避けられません。その他にも「自己責任である」「自分で穿刺しなければならない」「金銭的な負担が比較的大きい」「機材の設置のために最低でも4畳以上のスペースが必要」といったデメリットもありますので、よく理解した上で在宅血液透析という選択肢について考える必要があります。

腹膜透析のスケジュール

 人工透析を大別した場合に、血液透析と並ぶのが「腹膜透析」です。在宅血液透析と同様に、腹膜透析は人工透析を自宅にいながら行うというスタンスです。血液透析とは異なり、通常1日4回のペースで透析液の交換を行います。

 腹膜透析は、血液透析よりも高頻度での作業が必要になります。しかし、1回の透析液交換にかかる時間は20~30分ほどです。1回で4時間以上の時間を必要とする血液透析とは大きく異なる性質であり、例えば職場でも昼の休憩時間を利用して透析液の交換が可能です。

 作業頻度が高い代わりに作業1回あたりの拘束時間が短いため、透析治療開始前のスケジュールを崩さずに組み込みやすいというメリットがあります。通院の頻度も月に1~2回程度と少なく、通院をスケジュールに組み込むのが苦しいという人にとって大きなメリットとなります。

透析を上手にスケジュールに組み込み、生活の質を落とさない

 いかがでしょうか。確かに人工透析は腎機能が低下した患者さんにとって不可欠な存在ですが、決して透析に振り回される生活に成らざるを得ないというわけでもありません。患者さんの従来の生活スタイルを考慮して、影響を最小限に抑えるためのスケジュール構成の余地は十分にあると言えます。

 ただし、だからと言って透析治療を蔑ろにすることはできません。患者さんによっては少なからず生活スタイル・生活リズムに影響を及ぼすことも避けられません。なので、担当医とよく相談して、できる限り生活スタイルにおける満足度を下げずに済む方法を模索してください。

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