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慢性腎臓病の治療で処方される薬とは?

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 病気の治療法はさまざまですが、多くの病気の治療に用いられているのが「薬物療法」です。病気や患者さんの状態に合わせて最適な治療薬を処方して、病気を治療したり進行を遅らせるために用いられています。

 慢性腎臓病でも、当然ながら薬が処方されています。ですが「薬が処方される」「薬物療法が実施される」とは言っても、具体的にどのような治療薬を用いるかについては知らない人のほうが多いでしょう。

 そこで、慢性腎臓病の治療において処方される薬の種類や、それぞれの役割について解説します。

慢性腎臓病の治療の目的とは?

 まず最初に、慢性腎臓病を治療する際の「目的」について説明しておきます。慢性腎臓病の治療の目的は大きく「腎不全の予防」と「合併症の予防」の2つに分けることができます。

腎不全の予防

 慢性腎臓病が進行すると、徐々に腎機能が低下してしまいます。最終的には腎機能が大きく低下して末期の腎不全を患ってしまい、人工透析か腎移植が必要になってしまいます。そうならないように、腎機能の悪化を防ぐために治療を続けます。

合併症の予防

 慢性腎臓病は、さまざまな病気を合併しやすいです。「心筋梗塞」や「脳卒中」など、命にかかわるような心血管疾患などを合併しやすく、その発症を防ぐことも慢性腎臓病の治療目的となります。

慢性腎臓病の治療で用いられる薬

降圧薬

 慢性腎臓病と「高血圧」は深く関わっており、血圧を下げるための薬である「降圧薬」は重要な役割を担っています。高血圧は慢性腎臓病を悪化させるだけでなく、慢性腎臓病自体が高血圧の原因にもなります。これは、腎臓が血圧の調整において大きな役割を担っていることが理由です。

 慢性腎臓病の治療において、血圧のコントロールは重要なポイントになります。降圧薬にはさまざまな種類があり、単一の薬で十分に血圧を下げられなかった場合には複数の降圧薬を組み合わせて血圧のコントロールを行います。

脂質降下薬

 慢性腎臓病患者さんは、血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が過剰な状態になる「脂質異常症」を合併している可能性が考えられます。その治療のために「脂質降下薬」を使用します。

 脂質異常症が進行すると、動脈硬化や高血圧などを合併し、心筋梗塞や脳梗塞といった命にかかわる疾患の原因になります。その改善のために用いられる脂質降下薬は、患者さんの状態に合わせてLDLコレステロールを下げる薬や中性脂肪を下げる薬が処方されます。

糖尿病治療薬

 慢性腎臓病の治療において「糖尿病」は無視できない要素となります。なぜなら人工透析の導入理由として第一に挙げられるのが「糖尿病性腎症」だからです。腎機能を守るためには血糖をきちんとコントロールし、糖尿病を早期の段階で食い止める必要があります。

 糖尿病の治療薬には飲み薬や注射薬が使用されます。飲み薬を複数使用しても血糖値のコントロールが不十分であると判断された場合には、インスリンの自己注射で血糖コントロールを継続するケースが多いです。

尿酸降下薬

 腎機能が低下すると尿酸の排泄機能が低下してしまい、最終的に「高尿酸血症」を発症してしまいます。高尿酸血症を放置すると動脈硬化や高血圧、糖尿病などの生活習慣病に関係し、腎機能障害の危険因子にもなります。

その治療のための尿酸降下薬には、体内の尿酸の産生を抑える薬と、尿酸の排泄を促す薬があります。この2つのタイプの治療薬を組み合わせて高尿酸血症を改善します。

利尿薬

 腎臓は、体内の余分な水分を尿として排泄する役割を担っています。腎機能が低下すると十分な尿を作り出せず身体に余分な水分が蓄積してしまい、体重増加や血圧の上昇、むくみなどの原因になります。

 利尿薬を使用することで尿量を確保し、余分な水分やナトリウムなどの排出を促します。ただし、ネフローゼ症候群に対しては効果が得られないため、「濃縮アルブミン製剤」を併用することがあります。また、不用意に利尿薬を飲むと腎機能を悪化させてしまう恐れもあります。

骨に関係する治療薬

 慢性腎臓病の治療においては「骨」の健康も考慮する必要があります。腎臓はカルシウムやリンといった、骨に関係するミネラルの調整において大きな役割を担っています。慢性腎臓病が進行するとこれらのミネラルの血液中のバランスが崩れてしまい、

リン吸着薬

 慢性腎臓病が進行して腎機能が低下すると、リンを排出する機能が低下して「高リン血症」を発症してしまいます。それにより骨がもろくなり、血管や心臓にも悪影響を及ぼしてしまいます。リン吸着薬は、食べ物に含まれているリンを腸内で吸着し、吸収させること無く体の外に排出させる効果があります。

活性型ビタミンD3製剤

 腎臓は、カルシウムを体内に吸収するために必要な「活性型ビタミンD」を作っているのですが、慢性腎臓病が進行して腎機能が低下すると活性型ビタミンDも少なくなります。これによりカルシウムが吸収されなくなり、骨がもろくなってしまいます。そこで、活性型ビタミンD3製剤により不足を補い、カルシウム吸収を行わせます。

カリウム吸着薬

 腎機能が低下すると、血液中のカリウムを排出する機能が低下します。これにより「高カリウム血症」を発症してしまい、手足のしびれや不整脈などの原因となります。高カリウム血症は、後述する「アシドーシス」の影響も考えられます。

 その治療法として用いられるのがカリウム吸着薬です。腸内でカリウムとくっついて、便として体外に排出します。

吸着炭素製剤

 腎機能が低下すると、血液中の老廃物を尿中に排出する機能が低下します。この老廃物はいわば「毒素」であり、十分に排出されなくなると「尿毒症」の原因となります。尿毒症を発症すると全身にさまざまな症状が現れます。

 その治療のために、腸内で毒素を吸着する吸着炭素製剤を使用します。尿毒症の原因となる毒素を吸着して便として排泄するのですが、治療のための他の薬も吸着してしまうという特徴があります。そのため、服用する際には他の薬と時間をずらす必要があります。

造血ホルモン剤および鉄剤

 腎臓の役割の一つに、赤血球を作るホルモンを産生するという役割があります。腎機能が低下するとそのホルモンが不足してしまい、貧血を起こしてしまいます。これを「腎性貧血」といいます。貧血をそのままにしてしまうと心臓の負担が大きくなり、心不全の原因になります。

 その治療法として、造血ホルモン剤を注射して不足しているホルモンを補います。また、赤血球を作るためには「鉄」が必要不可欠であり、鉄が体内に不足している場合は鉄剤を使用してこれを補います。

重炭酸ナトリウム

 腎機能が低下すると水素イオンなどの酸性物質を尿中に排泄する機能が低下します。結果、本来であれば弱アルカリに保たれている人間の体が酸性に傾いてしまいます。これを「アシドーシス」といいます。放置すると血液中のカリウム濃度が上昇し、慢性腎臓病が悪化するリスクを抱えます。それを防ぐために重炭酸ナトリウム(重曹)を服用します。

さまざまな薬を使用、不安な場合は医師に相談を

 このように、慢性腎不全の治療においては、患者さんの状態に合わせてさまざまな薬が使用されます。風邪薬のように「これ1つだけで治療できる」ということはなく、腎機能が低下することにより発生する弊害ごとに適した薬が使用されます。

 多くの薬を使用することで、患者さんはかえって不安になるのではないかと思います。処方された薬に不安があれば、早めに担当医に相談しましょう。どういった効果や副作用があるのかを納得のゆくまで聞いておけば、安心して治療を継続できるはずです。

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