透析原因・

慢性腎臓病患者さんの糖尿病治療は、なぜ重要?

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 慢性腎臓病の治療を受けている患者さんは、腎臓病以外の病気の治療を同時に進めるケースも珍しくありません。時には慢性腎臓病がその他の病気に、逆にその他の病気が慢性腎臓病に悪影響を及ぼすこともあり、放置することはできません。

 そんな慢性腎臓病と共に治療を進める可能性がある病気の中に「糖尿病」があります。そして、慢性腎臓病の患者さんで糖尿病を併発している場合、糖尿病治療がとても重要になることをご存知でしょうか?

 そこで、慢性腎臓病患者さんの糖尿病治療がなぜ重要なのかについて説明します。

糖尿病とは?

 まず最初に、糖尿病について簡単に説明しておきます。糖尿病とは、血糖値が高い状態が続く病気のことです。通常、血糖値が高くなるとインスリンというホルモンが働き、細胞に血糖を送ることで血糖値を下げます。

 しかしインスリンの働きが不十分になる、あるいはインスリンの量が少なくなると、血糖値が高くなってもこれを下げることができなくなってしまいます。結果、血糖値が高い状態が続くことになります。

 どこに問題があるのかと言うと、血糖値が高い状態が続くと「血管へのダメージ」の原因になることです。糖尿病になり高血糖状態が続けばそれだけ血管へのダメージが蓄積し、全身にさまざまな合併症を引き起こします。

糖尿病の診断基準

糖尿病型

・空腹時血糖値126mg/dl以上
・経口糖負荷試験2時間後値200mg/dl以上
・随時血糖値200mg/dl以上
・HbA1c6.5%以上

正常型

・空腹時血糖値110mg/dl未満
・経口糖負荷試験2時間後値140mg/dl未満

境界型

・糖尿病型でも正常型でもないもの

糖尿病の原因

 糖尿病には「1型」と「2型」、「特定の原因によるその他の糖尿病」「妊娠糖尿病」が存在します。1型糖尿病の原因は膵臓でインスリンを作っているβ細胞が破壊されることでインスリンが全く分泌されないことですが、β細胞が破壊される詳しい原因は解明されていません。

 糖尿病患者の大半は2型糖尿病に分類されます。2型糖尿病の発症原因として大きなものは「生活習慣」です。食習慣の乱れと運動不足、過度なストレスによる暴飲暴食を繰り返すなどにより、インスリンの働きが弱まって糖尿病を発症します。

 特定の原因によるその他の糖尿病は、遺伝子の異常や薬剤による影響、他の病気を原因としているものが挙げられます。妊娠糖尿病は、妊娠中に胎盤が作るホルモンの影響でインスリンの働きが抑えられることで発症します。

腎臓と糖尿病の関係

糖尿病の合併症の一つ「糖尿病性腎症」

 慢性腎臓病患者さんにとって糖尿病治療が重要なポイントになるのは、「糖尿病性腎症」が深く関わっています。前述の通り、糖尿病は高血糖状態による血管へのダメージにより、さまざまな合併症をもたらします。

 糖尿病の合併症は大きく分けて2種類あり、一つは「細小血管障害」で、細い血管に見られる糖尿病の特徴的な合併症です。これに属する3つの合併症は「糖尿病の3大合併症」と呼ばれており、糖尿病性腎症もこれに含まれています。もう一つは「大血管障害」で、大きな血管の動脈硬化により心筋梗塞や脳卒中の原因となります。

 糖尿病性腎症は、高血糖状態により腎臓の糸球体に悪影響を及ぼします。糸球体は血液を濾過して余分な水分や老廃物などを尿として体の外に排出する働きをしており、糸球体がダメージを受けることでこれらの機能が低下します。

透析導入原因の第1位

 慢性腎臓病患者さんが糖尿病性腎症を警戒しなければならない理由の一つに、糖尿病性腎症と透析療法の導入原因(疾患)が関係しています。2014年の透析導入患者さんの原疾患について調べたデータによると、なんと43.5%の患者さんが糖尿病性腎症を原因として透析療法を導入しており、他の原因を大きく引き離して第1位となっています。

糖尿病性腎症の自覚症状

 糖尿病性腎症の厄介なところは、初期の段階では自覚症状が乏しく、徐々に症状が悪化してしまうということです。腎機能が低下すると尿量が減少するため、そこから腎機能の低下を自覚することができます。ところが糖尿病性腎症の場合、発症からすぐに尿量に目立った増減があるわけではないので、尿量から初期段階で糖尿病性腎症を発見するのは極めて困難です。

糖尿病の治療法

 ここでは糖尿病の大半を占める「2型糖尿病」の治療方法について説明します。

糖尿病治療の基本的な目的

 糖尿病治療の基本的な目的は「血糖をコントロールすること」です。血糖をコントロールするのは、糖尿病性腎症などの糖尿病の合併症の発症を防ぐためです。血糖値を糖尿病ではない人と同程度の水準まで落とし、生活の質を確保することが目標となります。

糖尿病治療の具体的な内容

 具体的な内容・方針については患者さんごとに異なり、医師から指導を受けることになります。おおまかな内容としては「食事療法」「運動療法」「薬物療法」の3種類の治療法を併用することで治療を進めることになります。

食事療法

 過剰にエネルギーを摂取すると糖尿病を悪化させることになりますが、過剰に減らしすぎても健康を損ないます。糖尿病の食事療法は「適正なエネルギー摂取量」を知り、食生活に反映させることが基本となります。

 一般的な適正エネルギー摂取量は以下の計算で求められます。

適正エネルギー摂取量=標準体重×身体活動量
標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22(BMI 22のこと)
身体活動量

  • 軽労作:25~30kcal/kg
  • 普通の労作:30~35kcal/kg
  • 重い労作35~kcal/kg

 糖尿病の食事療法においては「食品交換表」を用いることが推奨されています。食品交換表は糖尿病の食事療法のための6つの食品群に分けて、それぞれの食品を80kcalの分量で表記しています。同じ食品群同士であれば食品を交換できるので、日々の献立づくりの幅を広げることに寄与します。

 また、エネルギー源となる栄養のバランス配分を考慮した食事を続けることも、糖尿病の食事療法において重要なポイントになります。「炭水化物は太るから・・・」と極端に炭水化物を減らすと、必要なエネルギー量を確保できません。配分は一般的に以下のとおりです。

  • 炭水化物:摂取エネルギーの50~60%
  • タンパク質:摂取エネルギーの15~20%
  • 脂質:摂取エネルギーの20~25%

 さらに、食事の仕方についても考慮する必要があります。押さえておきたいポイントは以下の内容です。

  • ゆっくり噛んで食べる
  • 朝昼夕の3食を規則正しく食べる
  • 就寝前の飲食は避ける
  • 栄養のバランスを考えて食べる
  • 腹8分目に抑える

運動療法

 糖尿病治療のための運動療法は、「減量のため」と「インスリンの効果を高めるため」に行われます。特に食後1~2時間後の有酸素運動は食事によって増加した血糖を消費することにより、急激な血糖値上昇を防ぐ効果が期待できます。また、筋力を鍛えることにより筋肉量が増加し、インスリンの効果が高まります。

 運動を行う目安としては、できれば毎日、そうでなければ週3日以上のペースで、1回20分以上の運動量が望ましいです。ただし患者さんの状態次第では運動量を制限されるケースもありますので、医師の指示に従って運動を行ってください。

薬物療法

 血糖値が高く、食事療法と運動療法では十分に血糖値を下げられないと判断された場合には薬物療法が併用されます。糖尿病治療に用いられる薬にはいくつか種類があり、インスリンの分泌を改善する薬や糖の分解・吸収を遅らせる薬などがあります。1型糖尿病の患者さんの場合はインスリン注射が用いられますが、2型糖尿病でも用いられるケースがあります。

 また、薬物療法が選択されるからと言って、食事療法と運動療法を無視して良いわけではありません。あくまでも食事療法と運動療法と併用することで糖尿病の治療効果が期待できます。

糖尿病治療は腎臓にとって重要なこと、医師の指示を守って治療を

 糖尿病を放置すれば、細小血管障害によって糖尿病性腎症を患ってしまいます。その結果、腎機能が徐々に低下して最終的に透析療法を導入せざるを得なくなってしまいます。その影響が少ないうちに、これ以上糖尿病が進行しないように治療を開始することが重要です。

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