透析原因・

透析患者さんの死因の40%は心疾患?!カルシウム・リン管理で長生き!  

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 腎臓に働きには、老廃物の排泄やさまざまなホルモンの調整を行っています。カルシウムやリンといった骨ミネラルのバランスを保つ上で腎臓が中心的な役割を担っています。慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)で生じるミネラル代謝異常は、CKD-Min-eral and Bone Disorder :CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)という概念が提唱されています。骨や副甲状腺の異常だけでなく、全身の血管の石灰化(異所性石灰化)により心血管疾患を引き起こすなどするため、生命予後に大きな影響を与えると言われています。今回は、骨ミネラル代謝異常についてお話していきたいと思います。

腎臓が悪くなると骨ミネラル代謝異常がなぜ起こるの?

 腎臓は、カルシウムやリンなどのミネラルを調整する中心的な働きを担っています。腎臓は、尿中に排泄するカルシウムとリンの量をコントロール働きとともに、ビタミンDを活性化する場でもあります。活性型ビタミンD3は腸管でのカルシウムとリンの吸収を促す作用があり、正常時には必要なカルシウムを吸収します。腎臓の機能が正常な場合は、これらの作用によって、カルシウムとリンの量は一定に保たれます。
 しかし、腎臓の機能が低下するとカルシウムとリンバランスが崩れます。尿中へのリンの排泄が低下するため、血液中のリンの濃度は上昇し高リン血症となります。また、腎臓での活性型ビタミンD3の産生が低下するため、腸管でのカルシウム吸収が低下し、血液中のカルシウム濃度は低下し低カルシウム血症となります。
高リン血症や低カルシウム血症の状態が持続すると、それを改善するために骨の代謝を調節する副甲状腺ホルモン(PTH : parathyroid hormone)が分泌されます。

副甲状腺ホルモン(PTH)とは?

 副甲状腺は、甲状腺の裏側にある米粒ぐらいの大きさの臓器です。この臓器から出るホルモンを副甲状腺ホルモン(PTH)といいます。PTHには、血液中のカルシウムやリンの濃度、骨のカルシウム量を調整する重要な役割があります。血液中のカルシウム濃度が低下したり、リン濃度が上昇したりすると、副甲状腺はPTHの分泌を増加させます。分泌されたPTHは、骨に作用し、骨に貯蔵されているカルシウムを溶かし出したり、尿中へのリンの排泄を促したりします。

http://tamada-clinic.jp/parathyroid.html

二次性副甲状腺機能亢進症とは?

 低カルシウム血症、高リン血症は甲状腺の左右上下4か所に存在する副甲状腺を刺激し、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を亢進させます。通常、副甲状腺ホルモンは骨に作用してカルシウムを上昇させ、腎臓に働いてリンの排泄を亢進させ、低カルシウム血症、高リン血症を改善していきます。
 しかし、慢性腎不全では骨の副甲状腺ホルモンに対する反応が不良となったり、腎臓ではリンが尿中に排泄されなくなったりしているため、低カルシウム血症、高リン血症が是正されず、副甲状腺ホルモンがさらに上昇していきます。副甲状腺ホルモンの上昇により、骨からカルシウムが溶け出す骨吸収が亢進している状態を二次性副甲状腺亢進症といいます。

二次性副甲状腺機能亢進症の症状

 副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に働くと、骨の新陳代謝が活発になり、骨が作られるスピードよりも壊されるスピードの方が速くなることがあり、骨がスカスカの繊維状になってしまう、線維性骨炎とよばれる骨の変化を起こします。骨が壊されるスピードが加速すると、骨がもろくなって痛みや関節痛を引き起こしたり、骨折しやすく、骨折しても治りにくくなったり、骨格筋が変形したりします。また、骨から溶け出したカルシウムとリンが骨以外の組織や血管、体のさまざまな器官に沈着し、異所性石灰化を引き起こします。

二次性副甲状腺機能亢進症の検査とは?

血液生化学検査

 透析患者さんでは、各検査の目標値を以下の値に保つよう推奨されています。特にカルシウムとリンの管理はとても重要です。
1)血清補正カルシウム値:8.4~10.0 mg/dL
2)血清リン値:3.5~6.0 mg/dL
3)副甲状腺ホルモン
血清インタクトPTH(i-PTH):60~240pg/mL

画像診断

1)全身骨X線撮影
骨吸収、びらん、骨硬化像などを示します。
2)骨塩量測定装置(DEXA)などによる骨塩量の定量
骨塩量の低下
3)頸部エコー、頸部CT
副甲状腺の腫大を検討します。

二次性副甲状腺機能亢進症の治療とは?

副甲状腺ホルモンの抑制

1)活性型ビタミンD3製剤

経口剤では、ファレカルシトール(フルスタン®、ホーネル®)。注射薬では、カルシトリオール(ロカルトロール®)、マキサカルシトリオール(オキサロール®)。これらの活性型ビタミンD3製剤は、腸管からのカルシウムの吸収をたすけ、副甲状腺で副甲状腺ホルモン(PTH)がつくられるのを抑えます。

2)カルシウム受容体作動薬

 副甲状腺には、血液中のカルシウムを感知してPTHの分泌を調整するカルシウム受容体があります。カルシウム受容体作動薬であるシナカルセト(レグパラ®)とエテルカルセチド(パーサビブ®)は、この受容体に結合し、PTHの分泌を抑制します。PTHだけでなく、カルシウムやリンの値も下げる二次性副甲状腺機能亢進症治療薬となっています。

ビタミンD3投与にて副甲状腺ホルモンの下降が見られない場合や、高カルシウム血症、高リン血症により治療の続行が困難な場合には以下の方法を考慮します。
・経皮エタノール、ビタミンD3注入療法
・副甲状腺摘出術(PTX)

高リン血症を是正する

1)食事療法

リンを多く含む食品を控え、適量のタンパク質を摂取する

2)リン吸着薬

食物中のリンと結合して、体外へ便とともに排泄させる薬です。
・セベラマー塩酸塩(レナジェル®、フォスブロック®)、ビキサロマー(キックリン®)
体内にいっさい吸収されずに消化管でリンを吸着して便と一緒に排泄します。
・沈降炭酸カルシウム
カルシウムを補充するとともに、消化管内のリンを排泄します。
・炭酸ランタン(ホスレノールチュアブル®)、クエン酸第二鉄(リオナ®)、スクロオキシ
水酸化鉄(ピートル®)
 新しく登場したリン吸着薬です。

3)十分に透析を行う

十分な透析によってできる限り体内のリンを除去します。

二次性副甲状腺機能亢進症を予防するには?

 透析導入前の慢性腎不全保存期より二次性副甲状腺機能亢進症は、進行していきます。ビタミンD3を投与するとともに、血液検査で定期的にカルシウム、リン、副甲状腺ホルモンの値を測定していく必要があります。高リン血症にならないように、食事でリンを摂りすぎないように注意しましょう。

血管が石灰化するとどうなるの?

血液中にカルシウムやリンが増加すると、血液中でカルシウムとリンが結合し骨以外の組織や血管、体のさまざまな器官に沈着し、異所性石灰化を引き起こします。
 心臓や脳を栄養する血管が石灰化すると十分な血液が心臓や脳の全体にいかなくなり、心筋梗塞や脳梗塞を発症しやすくなり、肺の血管が石灰化した場合では、肺の働きが弱くなり、呼吸困難になることがあります。足の血管が石灰化によって細くなると、歩行時の痛みや、足先の血行不良の原因となり、ひどい場合は壊死(血行不良により腐る)に陥り、足を切断しないといけなくなるケースもあります。

 血管石灰化の進んだ患者さんでは、そうでない患者さんと比べて、あまり長生きできないことが報告されています。血管石灰化が進まないようにすることがとても大切です。

心臓の弁の石灰化とは?

 カルシウムとリンのコントロールが良くない患者さんでは、血管だけでなく心臓の中にある弁も石灰化しやすくなっています。心臓は内部が4つの部屋(心室・心房)に分かれていて、各部屋の出口に弁があります。この弁は、血液の逆流を防止しているのですが、石灰化によって硬くなると、血液の通過障害や逆流が生じます。この状態を心臓弁膜症といいます。この状態になると、心臓に大きな負担がかかり心不全の原因になります。また、不整脈の原因になる場合もあるので病状が重篤な患者さんでは、石灰化した弁を取り除き、生体弁や人工弁に取り換える手術が必要となります。

石灰化の検査とは?

画像診断

1)全身骨X線撮影

著明な石灰化は、単純X線撮影でも同定できます。関節、骨周囲の石灰沈着を認めます。

2)CTスキャン

頭部、胸部、腹部CTにて石灰沈着が同定できます

3)心エコー

心臓の弁の石灰化、弁膜症の程度を検査します

4)脈波伝播速度(PWV/ABI)の測定

血管の動脈硬化度、閉塞度を測定します

血管石灰化を予防するには?

 血管の石灰化には、カルシウムとリンのバランス異常が大きく影響しているので、カルシウムとリンの管理をしっかりと行うことが大切です。カルシウムとリンの管理をしっかりと行えている患者さんは、血管石灰化が進みにくく長生きできているという報告があります。
 また、二次性副甲状腺機能亢進症の治療を行うことで、血管石灰化の進行を遅らせることもできます。しかし、石灰化してしまった血管を元に戻すことは、非常に困難です。そのため、血管が石灰化しないように予防することがとても重要です。

血管以外に起こる石灰化とは?

 血管以外で石灰化が起こりやすい場所は、関節や皮膚、眼の結膜などです。関節が石灰化すると、関節が動かしにくくなり、痛みが現れることもあります。皮膚が石灰化すると、皮膚がかゆくなり、重症な場合は皮膚に潰瘍ができることがあります。目の結膜に石灰化が生じた場合には、眼が充血して赤くなることがあります。

石灰化を早期発見するには?

 関節周囲の痛みや筋肉内のしこりなどに気づいた場合には、医師に相談しましょう。X線撮影を行い、異所性石灰化を検索します。自覚症状がない場合でも定期的に全身骨のX線撮影を行い、骨、関節周囲、血管の石灰化の程度を把握していきます。必要に応じてCTや心エコー検査を行っていくことで早期発見することができます。

透析患者さんにとってカルシウム・リンの管理は重要!

 今回お話してきたように、腎不全患者さんにとってカルシウム・リンの管理はとても重要です。カルシウムとリンのバランスが崩れることで二次性副甲状腺機能亢進症となり、骨の病気や血管などが石灰化し、心筋梗塞や心不全、脳血管障害を引き起こす原因となります。透析患者さんの死亡原因の約40%は心血管疾患です。定期的にカルシウム・リンの測定をしてもらい、管理ができているか確認していきましょう。

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