基礎知識

人工透析にも種類があるの?それぞれの治療法とその特徴とは?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

 機能が低下してしまった腎臓の代わりに、人工的に血液中の余分な水分や老廃物を取り除いて血液を体内に循環させる、この人工透析の仕組みは多くの人が理解していることでしょう。しかし、いざ人工透析を受ける段階になると、透析にもいくつかの種類が存在することを知ることになります。

 種類がある、ということはつまり各種透析にはそれぞれ特徴があるということになります。なので、それぞれの種類の透析の特徴を理解して、自分にとって最もメリットのある方法を選択する余地があるということになります。専門家ほど詳しい知識は持たなくて良いでしょうが、おおまかな特徴だけでも把握しておくと安心できるのではないかと思います。

 人工透析にどのような種類があるのか、それぞれの透析治療にどういった特徴があるのかについて解説します。

人工透析についておさらい

 まずは、人工透析の仕組みについて簡単におさらいしておきましょう。人工透析とは、本来であれば腎臓によって行われる血液の濾過作業を、医療機器を用いて人工的に行う治療のことを言います。

 腎臓は血液中の余分な水分や老廃物を濾過し、不要な物質については尿として体外に排出します。しかし、何らかの理由で腎臓の機能が低下してしまうと、水分や老廃物を十分に濾過できなくなってしまいます。その結果、さまざまな症状を呈することになるのです。

 腎機能低下が初期の段階であれば、まだ回復の見込みがあるケースが多いです。しかし、腎臓の機能が著しく低下してしまうと治療による回復の見込みは薄く、腎臓機能の低下を防ぐ治療を行うか腎代替療法を利用する必要があります。腎代替療法は、「人工透析」と「腎移植」に分かれます

人工透析の種類

 人工透析には、大きく分けて「血液透析」と「腹膜透析」の2種類に分類することができます。それぞれに、さらに数種類に細かく分類することができます。

血液透析とは

 血液透析は、血液透析器(ダイアライザー)を利用して血液中の余分な水分や老廃物を取り除く治療法です。体の外に血液を移動させ、血液をきれいな状態にしてから体の中に戻すという方法で透析治療を行います。

 透析治療を受けている患者さんの多くは、こちらの方法を選択しています。

血液透析の種類

長時間透析

 一般的な血液透析は1回あたりの透析にかかる時間は4時間です。長時間透析では一般的な週3回×4時間の枠組みにとらわれず、1回で8時間かけて透析治療を行います。透析による尿毒素の除去量は透析時間に比例することと、時間をかけて透析を行うことで身体への負担が少ないといったメリットがあります。

オーバーナイト透析

 長時間透析と同じく、透析にかける時間が長い透析療法です。しかし一般的な長時間透析とは異なり、透析治療を行うのは夜間の睡眠中です。睡眠中に透析治療を施すことにより、昼間の長時間透析よりも1日のうち自由に使える時間が長くなります。そのため、長時間透析のメリットである尿毒素の除去量の多さに加えて、生活の質を維持できるというメリットを併せ持っています。

血液濾過透析

 通常の透析治療に加えて、血液の濾過も行う透析療法です。通常の血液透析は「拡散」によって対象物を除去するのですが、これは濾過と比較すると除去しやすい分子量の大きさが違います。通常の血液透析と比較して中分子量以上の物質の除去効率が高く、タンパク質などの除去が期待できる方法です。

頻回透析

 通常の血液透析は1週間に3回のペースで行われますが、頻回透析では1週間に5回以上の透析治療を受けることになります。1週間あたりの透析治療による処理可能な血液量が増加し、透析1回あたりの透析時間を減らすことができます(頻回透析でも長時間透析は可能)。透析治療による副作用に悩んでいる患者さんが短時間の頻回透析に切り替えて、症状が大幅に改善されたという話もあります。

在宅透析

 通常の血液透析は病院に通院して受けることになりますが、これを自宅で行う在宅透析の利用者が年々増加傾向にあります。透析治療に必要な機器を自宅に設置して、患者さん自身が血液透析を行います。生活の質が向上する一方で、患者さん自身で透析を管理しなければならないという点に不安が残ります。

血液透析のメリット

医療スタッフによる安心の治療(在宅透析を除く)

 病院に通院して透析治療を受ける以上、透析に関わる処置や操作は医療スタッフが実施します。在宅透析の場合は機器の操作や透析の管理などを、主治医の指示があるとは言え患者さん自身で行わなければなりません。病院のスタッフに任せられるので機器の操作などを覚える必要がなく、安心して透析治療を受けられます。

週3回の通院の利点

 週3回以上の通院が血液透析の基本となります。医療関係者との接点ができるという安心感だけでなく、医療関係者とのコミュニケーションを通じて社会との接点ができるという点もメリットになります。

透析治療の日以外は自由に過ごせる

 血液透析は、四六時中ずっと拘束されるわけではありません。例えば一般的な血液透析の場合、週3回で1回あたり4時間の透析時間がベースになります。つまり週4日と、透析の日も病院での拘束時間を除けばある程度自由に過ごすことが可能です。移動先に血液透析が可能な病院があることが前提ですが、国内外の旅行や出張も十分に可能です。時間が経過して透析治療に慣れていけば、生活のメリハリをつけることも容易でしょう。

利用可能な病院が多い

 血液透析は、透析治療を受ける中で利用割合の多い種類です。そのため、血液透析利用可能な病院が多く、(お住まいの地域にもよりますが)通院の難易度が低くなります。前述の国内外の旅行についても、旅行先の選択肢が広くなるといったメリットもあります。

血液透析のデメリット

低血圧になりやすい

 一般的な1回4時間前後の血液透析は、身体への負担が小さくないことが指摘されています。透析治療の副作用で特に多く見られる副作用が「低血圧」であり、身体のだるさや足の痙攣といった症状が現れる可能性があります。

その他にも以下のような合併症のリスクが考えられます。

  • 不均衡症候群(頭痛、吐き気など)
  • 高血圧
  • 貧血
  • 感染症(肺炎、結核など)
  • 高カリウム血症
  • 二次性副甲状腺機能障害
  • 出血傾向

針を刺す痛み

 血液透析では、透析治療を受ける度に針を刺さなければなりません。針の種類を変更するなど針を刺すことによる痛みは軽減可能ではありますが、やはり誰しも「針を刺す」ということ自体に抵抗を感じることは避けられないでしょう。また、認知機能に障害がある透析患者さんの場合だと、抜針事故を起こすリスクについても考慮しなければなりません。

病院への通院が必要(在宅透析を除く)

 血液透析は、在宅透析を除けば基本的に病院で透析治療を受けることになります。透析について医療スタッフに任せられる安心感がある一方で「毎回、病院へ行かなければならない」という拘束感に近い感情を抱いてしまうケースも考えられます。中でも過疎地域にお住まいの人の場合、最寄りの医療機関に通院するだけでも相当な負担になる可能性があり、生活の質を著しく下げることを覚悟しなければならなくなります。

身体への負担が大きい(緩和は可能)

 血液透析は、前述の低血圧を含めて身体への負担を無視できないというデメリットがあります。週に数回、つまり本来であれば腎臓が行う数日分の水分や老廃物などを短時間で除去するので、身体に大きな負担がかかるのです。ただし、透析時間を考慮するなど、透析治療の種類を変更するなどして負担を軽減することは十分に可能です。

水分や塩分など食事の制限が厳しい

 透析治療を受けなければならないほどに腎機能が低下しているので、食事や生活の中で摂取する水分や塩分には注意が必要です。後述の腹膜透析と比較すると、食事制限が厳し目というデメリットがあります。

腹膜透析とは

 腹膜透析は、お腹の中にある「腹膜」を利用して行う透析療法です。腹膜とは腹腔内の臓器を覆っている生体膜のことであり、お腹に透析液を注入して余分な水分や老廃物を除去します。注入した透析液は定期的に交換し、透析液の浸透圧などを保ちます。

 透析治療の中ではマイナーな部類であり、透析治療を受けている患者さんのうち約3%の人が利用している透析方法です。

腹膜透析の種類

連続傾向式腹膜透析

 1日に数回の透析液交換を行う腹膜透析です。患者さん自身が透析液を交換する形式をとり、患者さんの生活スタイルに合わせた透析治療を継続することが可能です。1回の交換にかかる時間は約30分です。

自動腹膜透析

 就寝中の時間を利用して透析液の交換を行う腹膜透析の方法です。夜間に自動腹膜透析装置を用いて透析液の交換を行うので昼間の拘束時間が短く、職場で透析液を交換するのが難しい人にとってメリットのある方法です。夜間の交換に加えて、日中に透析液の貯留を併せる方法もあります。

ハイブリッド透析

 腹膜透析に加えて、血液透析を併用する形式の透析療法です。腹膜透析は残腎機能も利用するのですが、残腎機能が不十分で腹膜透析だけでは十分な透析効果を得られない場合に利用されます。

腹膜透析のメリット

通院回数が少ない

 腹膜透析の通院頻度は、血液透析と比較すると非常に少ないです。血液透析の場合は週に3回以上は通院しなければならないのですが、患者さん自身で透析液の交換を行う腹膜透析の場合は月に数回の通院で十分なケースが多いです。通院による拘束時間と生活の質の低下を抑えられます。

身体への負担が少ない

 腹膜透析は、血液透析と比較して体の負担が少ないです。長時間かけて透析を行うので、短時間で透析が完了する血液透析よりも副作用のリスクが少なくなります。通院頻度が少ないことも負担減に寄与すると言えます。

残腎機能を保持しやすい

 腹膜透析は残腎機能を保持しやすく、自分の腎臓の機能を長持ちさせたい患者さんにとってメリットが大きいです。血液透析と比較して食事制限も緩やかであり、尿が出る期間も長期になりやすいです。

毎回、針を刺すことがない

 腹膜透析では、血液透析のように毎回の透析の度に針を刺さなければならないということはありません。腹部に留置されている透析カテーテルによって透析液の注入と排出を行うので、穿刺による痛みの負担が無い種類です。

社会復帰しやすい

 腹膜透析は、透析開始後の社会復帰がしやすいというメリットがあります。病院への通院頻度が少なく、自分で透析液の交換もできるので、生活スタイルを崩すリスクは小さいです。職場次第ではありますが、透析液の交換は職場内でも十分に可能です。

腹膜透析のデメリット

患者さんや介助者の管理が重要

 腹膜透析は、透析患者さん自身や介助者の管理が十分である必要があります。血液透析の場合は透析に関わる管理や操作の大半が医療スタッフによって行われますが、在宅での透析が基本となる腹膜透析の場合はそうはいきません。

管理が不十分だと感染症のリスクが高まる

 腹膜透析において患者さん自身の管理が不十分だと、感染症のリスクが高くなります。透析の出口部の管理が不十分で不衛生な状態が続くと、感染症の原因になりやすいので注意が必要です。

いつまでも治療できるわけではない

 透析治療が必要なほど腎機能が低下している場合、回復の見込みはほとんどありません。腎移植をしない限り透析治療は継続しなければなりませんが、腹膜透析の場合はいつまでも利用できるというわけではありません。

 腹膜透析は、通常、開始から数年で腹膜の機能が衰えてしまいます。また、残腎機能も低下して、透析の効果が十分に発揮されなくなってしまいます。腹膜炎や被嚢性腹膜硬化症などのリスクもありますので、腹膜透析は開始から数年で別の腎代替療法を考慮しなければらない種類なのです。

利用できる病院が少ない

 腹膜透析は、血液透析ほど利用患者が多くありません。血液透析は可能でも腹膜透析は不可能という病院も少なくありませんので、お住まいの地域によっては腹膜透析の利用のためにかなりの通院距離を強いられる可能性があります。

透析治療の種類を理解し、自分に合った方法を選択する

 いかがでしょうか。一言に透析治療を受けると言っても具体的にどのような方法で透析を行うかについてはいくつかの種類があることを理解できたと思います。各方法ごとにメリット・デメリットは大きく異なりますので、透析治療を受ける人はその内容を理解して、自分に合った方法を選択することが生活の質を維持する際に重要なポイントになります。

患者さん自身の生活を考慮して、どの種類の透析を利用するのかをご家族さんや主治医と十分な相談をされることをおすすめします。通院される病院によって、選択できる種類が限られる可能性がありますので注意してください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。