慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease)と診断されると、薬を飲んだり、食事を気を付けたりと病気が進行しないようにと日々努力されているのではないでしょうか?慢性腎臓病には、1~5と病気の進行によってステージが分けられています。ステージ4(推定糸球体濾過量30~15mL/min/1.73m3)になると腎機能のさらなる低下を防止してもステージ5である透析導入を避けることはできないと考えられています。ステージ5になると腎代替療法が必要となり、血液透析・腹膜透析・腎移植から選択しなければなりません。それぞれの治療の長所や短所を知り、自分自身で治療選択を行うことはとても大切です。今回は、血液透析と腹膜透析の違いについてお話していきたいと思います。
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慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease)とは?
腎臓には、大きく分けて3つの働きがあります。
- 老廃物の排泄
- 体液の調節(尿量、電解質、pHの調節)
- ホルモンの分泌(赤血球生成、血圧調整、ビタミンD3活性化)
慢性腎臓病になるとこれらの働きが悪くなります。そのため、腎臓の機能がなるべく悪化しないように早期から日常生活を見直したり、食生活で気を付けたり、薬を飲んだりする必要があります。
慢性腎臓病の病期とは?
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G1 |
G2 |
G3a |
G3b |
G4 |
G5 |
eGFR値 |
90以上 |
89~60 |
59~45 |
44~30 |
29~15 |
15未満 |
腎臓の働きの程度 |
正常 |
軽度低下 |
軽度~中等度低下 |
中等度~ 高度低下 |
高度低下 |
末期 腎不全 |
※eGFR値(推定糸球体濾過量)…血清クレアチニン値と年齢・性別を用いて算出し、腎機能の指標として使用しています。
ステージ1、2
ステージ1は、腎臓に障害はあるが、働きは正常。ステージ2は、軽度の機能低下。自覚症状がほとんどない病期となっています。早期発見し、回復が見込める段階で治療を開始することはとても重要です。
ステージ3
ステージ3は、腎臓の機能が半分近く低下している状態です。むくみなどの自覚症状が現れ始める方もいます。腎臓専門医による本格的な治療が必要となります。腎臓機能の低下を食い止めることがとても重要です。
ステージ4
ステージ4は、腎臓の機能が30%以下まで低下している状態です。腎臓の機能を回復させることが出来ない段階です。透析を開始する時期をなるべく遅らせれるよう、腎臓の機能を現状維持できることを治療目標としています。さまざまな症状が現れる時期なので症状の変化に注意が必要です。
ステージ5
ステージ5は、腎臓がほとんど機能していない状態です。腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)が必要となります。
腎代替療法とは
腎臓の機能が10%以下程度(ステージ5)になると透析や移植が必要となります。腎代替療法には、水や電解質・老廃物を除去する“透析療法”と腎臓の機能をほぼ全て補うことのできる“腎移植”があります。
透析療法にも血液透析と腹膜透析があり、腎移植にも生体腎移植と献腎移植とがあります。
腎不全
治療選択とその実際より
血液透析・腹膜透析・腎移植は、お互いに相補的な役割があります。最初に腹膜透析を選択し、その後血液透析に移行したり、血液透析から腹膜透析に移行したりすることもできます。透析療法から腎移植に移行することや、移植後に腎臓の機能が低下した場合には、透析療法に移行することもあります。それそれの利点・欠点を理解したうえでご自身のライフスタイルに合わせて治療選択を行うことが大切です。
腎不全 治療選択とその実際より
血液透析とは?
血液を人工腎臓(ダイアライザー)に循環させ、“拡散”と“限外濾過”の作用によって身体に溜まった不要な老廃物(代謝産物)や水分を除去し、電解質などのバランスを調整します。
血液透析の拡散とは
半透膜を透析液との濃度差を利用し物質(老廃物)が移動する現象のことをいいます。血液中の老廃物(代謝産物)は、透析膜を介して拡散により透析液側に排出されます。一方、血液に不足している物質は透析液側から血液側に入っていきます。
血液透析の限外濾過とは
圧力の強くかかった駅から弱い圧力の液に水分が移動することで老廃物を濾過することをいいます。身体に溜まった水は、人工腎臓(ダイアライザー)の透析液側に圧力をかけて除去します。
血液透析の回路
腕の血管に2本の針を刺し、血管と透析機器を2本のチューブでつなぎます。
①ポンプを使って血液を体外へ送る
②ダイアライザー(人工腎臓)を通して老廃物や余分な水分を透析液に移す
③きれいになった血液を再び体内に戻す
①~③の流れを循環させながら行います。
腎不全 治療選択とその実際より
ダイアライザー
ダイアライザーは、細いストロー状の透析膜(直径約0.2㎜)を約1万本束ねたものです。膜の内側に血液が流れ、外側を透析液が流れます。透析膜には無数の小さな穴が空いていて、拡散や限外濾過の作用により、血液中に含まれる老廃物や水分、電解質などが透析液側へ移動します。ダイアライザーは、患者さんの状態にあったものが選択されます。
ダイアライザーの選び方
- 身体の大きさ(体重・血液量)
- 透析効率
- 血圧
- 生体適合性
- 栄養状態
- 体調(炎症、出血など)
シャント(バスキュラーアクセス)
血液透析を行うには、1分間に200mlの血液を人工腎臓(ダイアライザー)へ送る必要があります。静脈では、血流量がたりないので、血流量の多い太い血管が必要となります。そのため、手首あたりの動脈と静脈をつなぎ合わせる手術を行います。この動脈と静脈をつないだ血管を内シャントといいます。
シャントの管理で気を付けること
- 手枕、腕枕をしない
- 袖口のきつい服は避ける
- シャント側に腕時計をしない
- 透析後止血に使用した絆創膏はつけたままにしない
- シャント側の腕で血圧測定、採血はしない
- 荷物を腕にかけない
血液透析患者さんの生活(例)
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月 |
火 |
水 |
木 |
金 |
土 |
日 |
午前 |
透析 |
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透析 |
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透析 |
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午後 |
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週3回4時間の透析を透析病院で行います。
腹膜透析とは?
腹膜透析とは、腹膜を使用して老廃物(代謝産物)の除去と除水を行う治療法のことをいいます。透析液をお腹の中に6~8時間貯留し、老廃物の濃度が高くなった透析液を管(カテーテル)を通じてバッグに排液し、新しい透析液をお腹の中に貯留します。
腹膜とは
身体の中にある肝臓、胃、小腸、大腸などの臓器は腹膜という半透膜で覆われています腹膜の表面積は、テニスコート1面分と同じほどあり、毛細血管が表面に網目のように走っています。
腹膜透析の拡散とは
お腹の中に管(カテーテル)を通して透析液を注入し貯留します。血液中の老廃物(代謝産物)や電解質などが透析液の中に移動します。必要な物質が透析液から身体の中へ入っていきます。腹膜は、孔の大きさが大きいためにアルブミンが抜けやすくなっています。
拡散を分かりやすく説明すると、紅茶のティーパックをお湯の中に入れると紅茶の成分がにじみでてくる感じです。
腹膜透析の浸透圧とは
身体に溜まった水分は透析液の浸透圧を高くすることで、透析液側に水分が移動します。透析液を長時間貯留すると血液の方の浸透圧が高くなるので、水分が身体の中へと戻ってしまうので、長時間貯留すれば良いというのもでもありません。
浸透圧を分かりやすく説明すると、キュウリに塩をかけるとキュウリの水分が外へ出る感じです。
テンコフカテーテルとは
透析液の出し入れにつかう管(チューブ)のことをいいます。手術によってお腹の中に管を入れます。
腹膜透析患者さんの生活(例)
CAPD(持続携行式腹膜透析)の場合
1日に3~4回透析液の交換を行います。1回の交換に30分程度時間がかかります。
APD(自動腹膜透析)
夜間に機械を使用して透析液の交換を行う方法です。
血液透析と腹膜透析の比較
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血液透析 |
腹膜透析 |
治療場所 |
病院、クリニックなど |
自宅や職場 |
治療する人 |
医療スタッフ |
ご自身、家族 |
通院回数 |
週3回 |
1~2回/月 |
治療にかかる時間 |
4~5時間+通院時間 |
30分/回×4回/日 |
導入前の準備 |
シャントを造る |
お腹に管を植え込む |
尿量(残腎機能) |
導入後短期間で減少する |
比較的長く維持される |
食事制限 |
塩分、カリウム、リン、 たんぱく質制限 |
塩分、リン、たんぱく質制限 |
旅行・出張 |
2泊以上の場合は、旅先の医療施設で透析が必要 |
透析液、器材の手配が必要 |
入浴 |
透析のない日に入浴 |
カテーテルのケアを行い入浴 |
仕事 |
夜間透析にするなど時間の調整が必要 |
会社でバッグ交換が必要 |
血液透析の利点と欠点
利点
・透析施設で医療スタッフが治療を行ってくれる
・週3回通院するので安心感がある
・週4日は自由に生活できる
欠点
・血圧が下がりやすい
・毎回針を刺されるので痛みが伴う
・頻回に通院しなければならない
・地域によっては透析施設が少ない
・シャント(バスキュラーアクセス)造設が困難なことがある
・ナトリウム、カリウムの管理が必要
腹膜透析の利点と欠点
利点
・通院が少ないので、通院の負担がない
・緩やかな透析なので心臓への負担が少ない
・血液透析より食事制限が緩やか
・残腎機能を保つことができる
・社会復帰しやすい
欠点
・1日4回腹膜透析をしないといけない
・毎日治療をしなければならない
・自分で行う治療なので負担や不安がある
・入居できる介護施設が限られる
・管理がきちんとできないと体液管理不良や腹膜炎などを起こし入院が必要となる
・お腹からカテーテルが出ているので入浴の際など注意が必要
今回は、血液透析と腹膜透析の違いについてご説明してきました。透析がそろそろ必要と医師から言われた時に、これらのことを参考にし、自分にあった透析療法は何かを考えてみてください。選択した透析療法が病状によってはできないこともありますが、それぞれの透析の特徴を知っておくことは大切です。
腹膜透析を最初に選んだ場合でも、腹膜状態にもよりますが5~7年程度で血液透析に移行する必要があります。血液透析を最初に選んだ場合でも、シャントが使用できなくなり再度作製が困難な場合、腹膜透析へ移行する必要がでてきます。
腎代替療法の療法選択について詳しく知りたい方は、医師や看護師へ一度相談してみてください。