慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease :CKD)の患者さんの数は、1,330万人といわれており、国民の8人に1人の割合になります。透析患者さんの数は、32万9609人(2016年末)となっています。健康診断で蛋白尿陽性が見つかった人の5~10%が、いずれ透析が必要となります。透析を開始すると生涯続けていかなければならない治療です。
透析を開始するにあたり、心配事の1つに医療費に関するのもがあると思います。今回は、慢性腎臓病や透析にかかる医療費や利用可能な社会資源についてお話していきたいと思います。
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慢性腎臓病(CKD)とは?
慢性腎臓病とは、慢性糸球体腎炎や慢性間質性腎炎、腎硬化症、多発性のう胞腎、糖尿病性腎症など慢性的に持続する腎臓病のことをいいます。腎臓の状態によって5段階に分類されます。慢性腎臓病が進行していくと透析療法が必要になります。
<慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)病期>
http://blog.livedoor.jp/suchan4wd6/archives/6030824.html
慢性腎臓病にかかる医療費とは?
外来通院の費用
CKDの早いステージでは、定期的に外来へ通院し、診察や検査を受けます。病状に応じて必要な薬を調整したりするので、診察費、検査費、薬代が必要となります。ステージが上がるにつれて内服する薬が増えたり、貧血治療の注射が始まったりすると薬代が増えるので医療費が多くなっていきます。
1.検査・診察費
血液中のクレアチニンなどを調べる検査費と診察費が3割負担の場合、1ヵ月に3,000円程度かかります。
2.薬代
血圧を下げる薬、尿酸値を下げる薬、腎臓の働きを補うタンパク量改善薬、高脂血症予防薬、ステロイド剤、ステロイドの副作用による骨粗鬆症防止のためのカルシウムD剤、胃薬などの7種類の薬が処方される場合、約6,000円です。
診察・検査・薬代を年間にすると約120,000円程度の支払いが必要となります。ステージが進むにつれて1ヵ月あたりの治療費も増えていくので、年間の支払金額も増えていきます。
ステージ |
治療費(1ヵ月あたり) |
ステージ2 |
27,000円 |
ステージ3 |
35,000円 |
ステージ4 |
45,000円 |
ステージ5a |
50,000円 |
ステージ5b |
68,000円 |
入院治療の費用
CKDと診断され、高血圧やむくみなどの症状や進行度合いによっては、教育入院が必要となる場合があります。教育入院では、腎臓病の進行を遅らせるために腎臓病に関する正しい知識や食事などの日常生活での注意することなどを学びます。入院期間は、病院によってさまざまですが、2~7日のところが一般的です。病状によって治療が必要な場合には、入院期間が長期となる場合もあります。入院時治療の費用には、治療費、検査・処置費、薬代、食事代、個室を希望した場合には差額ベッド代が必要となります。食事代と差額ベッド代は、保険が適応されないため全額自己負担となります。
医療費が高額になった時
慢性腎臓病で通院しているとお金がかかり負担と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか?「限度額適用認定証」や「高額療養制度」を知っていると医療費による負担を軽減させることができます。この制度は、慢性腎臓病だけでなく、色んな疾患でも適応になるので知っていると良いでしょう。
限度額適用認定証
入院・外来診療時の医療費が高額となった場合、「限度額適応認定証」を病院窓口に提示することで、一医療機関ごとの窓口での支払いが自己負担額までとなります。加入している医療保険への申請が必要となります。自己負担額は、所得や年齢によって変わります。
例)一般所得者:80,100円×(医療費-267,000円)×1%
高額所得者:167,400円×(医療費-558,000円)1%
「限度額適応認定証」の申請方法
・被保険者証に市区町村名が書かれている方
住んでいる市町村の国民健康保険課の窓口へ行って申請する。または、ホームページから申請書をダウンロードし、必要事項を記入し郵送します。
・被保険者証に「○○健康保険組合」、「全国健康保険協会」、「○○共済組合」と書かれている方
保険証に記載されている協会健保の各都道府県支部の窓口へ行って申請をするか、ホームページから申請書をダウンロードして必要事項を記載して郵送する。
・被保険者証に、「○○国民健康保険組合」と書かれている方
国民健康保険、協会けんぽ以外の個別の保険組合に入っている場合は、その保険組合の窓口へ行って申請をする。または、各ホームページから申請書をダウンロードし、必要事項を記載して郵送する。
「限度額適応認定証」使用時の注意点
・限度額の適応は、同一月、同一医療機関での受診が対象です。入院・外来(医科)・外来(歯科)は分けてそれぞれで計算します。
・入院時の食事代や差額ベッド代、先進医療は対象外です
・過去2年分さかのぼって請求できます。
・限度額の適応には有効期限があります。退職等で資格を喪失した時には認定証を返却しなければなりません。
高額療養費制度
「限度額適用認定証」を使用せずに高額療養費制度を利用した場合、高額療養費の申請をしないとその超えた部分の払い戻しがされません。高額療養費制度の場合、一度病院窓口で全額支払わなければなりません。高額療養費を申請したのち、通常2~3ヵ月以上してから返金されます。
高額療養費の問い合わせ先
高額療養費の問い合わせ先は、どの医療保険制度に加入しているかで変わります。
・被保険者証に市区町村名が書かれている方
記載されている市区町村の国民健康保険組合へ
・被保険者証に「○○健康保険組合」、「全国健康保険協会」、「○○共済組合」と書かれている方
記載されている保険者へ
・被保険者証に、「○○国民健康保険組合」と書かれている方
記載されている国民健康保険組合へ
慢性腎不全の治療にかかる医療費とは?
慢性腎臓病が進行していくと、腎不全となり腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)が必要となります。透析や移植にかかる医療費が、患者さん1人につき1ヵ月あたり血液透析では40万円、腹膜透析では35~70万円といわれています。生体腎移植を受けた場合には、初年度は手術費用も含めて400~500万円/年、2年目は150万円/年、3年目は100万円/年前後必要となります。しかし、健康保険やさまざまな助成制度を活用することで自己負担額を軽減することができます。
特定疾病療養受領証
対象者 |
慢性腎不全で人工透析を実施している方 |
医療費負担額 |
・1医療機関あたり、通院・入院ごとに月1万円 (70歳未満で月収53万円以上の方は、月2万円) ・入院の場合は、食事代・差額ベッド代は自己負担となります |
使用範囲 |
・全国で使用可能 ・人工透析を行っている月のみ使用可能です |
申請方法 |
・申請用紙 特定疾病療養受領証交付申請書 ・申請先 国民健康保険(後期高齢者医療)→役所 社会保険→全国健康保険協会都道府県支部 |
その他 |
・文書料は発生しません ・申請月の初日より有効の受領証が交付されます ・健康保険が変わると、再度手続きが必要です |
身体障害者手帳
障害の程度が、法で定めている基準に該当すると認められれば身体障害者手帳を取得できます。(透析を行っていない慢性腎不全の方も対象となります)。
対象者 |
身体障害者手帳の等級は、クレアチニンの値によって決定される |
必要書類 |
・交付申請書 ・「身体障害者福祉法第15条指定医師」の認定を受けた医師が作成する「身体障害者診断書・意見書」 ・写真(上半身 縦4cm×横3cm) ・マイナンバーの分かるもの |
申請方法 |
・「身体障害者診断書・意見書」を病院の医師に作成してもらう ・上記の必要書類を準備 ・申請先は、居住地の役所(障害福祉課) |
その他 |
・「身体障害者診断書・意見書」の記入にあたり、文書料が必要となります。 ・文書料は、市区町村によっては返金される場合があります。 |
身体障害者に対するさまざまな福祉サービスを利用するためには、手帳の交付を受ける必要があります。手続きについては、あくまで本人の意思に基づいて行われるため、本人が申請しなければ手帳は交付されません。
身体障害者手帳の障害等級・認定基準
障害等級 |
血清クレアチニン濃度 |
1級 |
8.0mg/dL以上 |
3級 |
5.0mg/dL以上、8.0mg/dL未満 |
4級 |
3.0mg/dL以上、5.0mg/dL未満 |
身体障害者手帳により受けられる主なサービス
・特別障害者手当
・税の減免
自動車税などの減税
所得税、相続税の優遇
・有料道路交通料の割引
・タクシー料金、JR、私鉄、バス、飛行機などの運賃割引
JR・私鉄運賃:介護者1名まで5割引き。一部取扱いなし
飛行機運賃:介助者1名を含む、国内のみ
・公共料金・携帯電話基本料等の割引
NHK放送受信料の減免
水道・下水道使用料金の割引
携帯電話の基本料・通話料の割引
・駐車禁止区域(法定禁止区域を除く)駐車許可
駐車禁止除外指定車の標章をもらう
介護タクシー、送迎サービスにも適応される
・公共、民間施設(映画館、劇場、美術館など)などの利用割引
など
自立支援医療(更生医療)
長期にわたる透析治療では医療費の負担が高額になるため、血液透析や腹膜透析、腎移植を受けた場合の自己負担分を国制度で助成します。世帯の所得によって自己負担があります。助成を受けるには、身体障害者手帳の交付をうけ、治療を受ける医療機関が自立支援医療機関の指定を受けていることが必要です。
自立支援医療では、自己負担額を定率の1割とした上で、1ヵ月の医療費が高額にならないように所得に応じて減額されます。また、透析患者さんのように長期にわたり高額な治療を継続しなければいけない(重度かつ継続)場合には、さらに軽減され所得に応じて、0~20,000円と6段階に限度額が区分されています。
都道府県による重度障害者医療費助成制度
医療保険の対象となる医療費・薬剤費など自己負担分について助成されますが、自己負担金が発生する場合があります。制度の名称、利用の制限、窓口は市区町村によって差があります。そのため、各市区町村の役場で確認してください。
障害者年金
透析療法を行いながら仕事を続けることが困難な場合があります。
障害者年金は病気などで一定の障害状態になった65歳以下の方に対して経済的な支援を行う制度です。
いくつかの支給要件や申請時期の規定があるため、申請手続きは各個人によって違います。要件を満たしてないと支給されない場合があります。
入院時食事療養費標準負担額
入院時に食事の提供を受けた時、入院時食事療養費として保険給付されますが、一定の金額を支払う必要があります。
また、市区町村民税非課税世帯の方は、標準負担額の軽減処置が受けられることになっています。加入している健康保険の窓口で申請が認められれば、標準負担額認定証が交付されます。
入院時における食事代の負担額
区分 |
負担額 (1食あたりの食事代) |
||
一般(市民税課税世帯) |
260円 |
||
市民税非課税世帯 |
過去1年間において |
90日までの入院 |
210円 |
90日を超える入院 |
160円 |
||
所得が一定基準に満たさない 世帯の70歳以上の方 |
100円 |
腎代替療養(血液透析・腹膜透析・腎移植)での自己負担額
負担は軽減されますが、全く自己負担がなくなるわけではありません。
血液透析にかかる自己負担額
事前に外来でシャント造設する場合、3割負担で4万円程度必要となります。身体障害者手帳発行に必要な「身体障害者診断書」を発行する場合は、文書料(5,000円~1万円程度)が必要です。身体障害者手帳3級を取得し、その後、透析導入となった場合、再度診断書を発行し手続きを行うことが必要となるため、再度文書料が必要となります。
腹膜透析にかかる自己負担額
身体障害者手帳を利用することで、透析液を温めるために使用するCAPDバック加温器の補助を日常生活用具として世帯の所得に応じて受けることができます。腹膜透析(PD)+血液透析(HD)併用の場合、PD+週1回のHDは保険で認められています。腹膜透析を開始する際には、カテーテルを挿入して教育後に退院するまでの2~4週間程度の入院となります。この入院は、前述の社会保障を活用すれば、食事代(1食260円)と差額ベッド代以外の請求はほとんどありません。
腎移植にかかる自己負担額
腎移植は、自立支援医療の対象になっています。ドナー(腎臓を提供する側)にかかる費用は全てレシピエント(腎臓を移植する側)の健康保険で支払われます。レシピエントも健康保険や特定疾病療養費制度や自立支援医療(更生医療)などの補助により、自治体ごとの差はありますが差額ベッド代や食事代を除けば自己負担額が0に近くなります。しかし、まったく自己負担がないわけではなく、最低限かかる費用があります。また、移植が成立するまではドナー候補の精密検査にかかる費用がいったんは自費での支払いとなります。
<献腎移植の場合>
登録に必要な費用
HLA検査3万3000円+献腎登録3万円、更新料5,000円
移植が成立した場合
コーディネート料10万円+臓器の搬送費用+検体搬送費+医師派遣費+ドナーの検査代+入院中の差額ベッド代+食事代
<生体腎移植の場合>
施設によって請求の仕方が違うため、最初に確認することをお勧めします。
治療費についての相談は病院の相談窓口へ
これまでに説明したうちの更生医療による医療費補助制度と自治体による身体障害者医療費助成事業における助成が、透析医療費の公費負担分と呼ばれています。これを利用することで外来の透析医療費に関する自己負担額は、概ね0となります。
自治体によって身体障害者医療費助成事業の対象となる障害程度(等級)は、異なります。透析を実施していない腎不全保存療法にも適応となる自治体もあります。各医療機関の医療ソーシャルワーカー(MSW:Medical Social Worker)に相談しましょう。