基礎知識

災害が起きてからでは遅い!透析患者さんが災害に備えて日頃から意識することとは?

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 日本はさまざまな「災害」に見舞われるリスクを背負っています。「地震」「大雨」「台風」などの自然の驚異は、時に人の行動を大幅に制限し、命を奪うこともあります。
 さて、透析患者さんにとっては「行動が制限される」ということは死活問題でもあります。平時と同じ感覚で透析を受けられず、長期に渡って透析を受けられなくなると命にかかわる可能性も十分に考えられます。
 そこで、透析患者さんが災害に備えて日頃から意識しておくべきポイントについてまとめました。

自宅で災害にあった時の対処法

まずは、透析中ではない自宅で災害が発生した場合の対処法について説明します。

場所の安全を確保する

 まず最初に、ご自身がその時点でいる場所の安全確保を行ってください。また、大雨等で河川が氾濫してると、避難時に流されてしまう可能性もあります。その場合は自宅の2階など、浸水の影響を受けにくい場所まで移動しましょう。

透析を受けている医療機関に連絡する

 その場の安全を確保できたら、次に透析治療を受けている医療機関に連絡してください。医療機関と連絡がつながったら、まずは自分のおかれている状況について報告してください。

 そのうえで、その医療機関で透析治療を受けられる状況にあるのかどうかを確認しましょう。透析を受けられるまでの日数や、場合によっては他の医療機関・施設等に移動して透析を受けるなど今後の対応についての確認をしてください。

 なお、災害発生時には電話がつながらないケースが多いです。無理に連絡がつくまでその場に留まるのではなく、周囲の状況を確認して必要に応じて避難する等の行動をとってください。また、必要に応じて「災害用伝言ダイヤル(171)」も利用してください。

物品を持参して避難する

 もし、その時点での安全確保が困難であると判断した場合には、早めに避難をしてください。その際には緊急持ち出し物品を持参することが推奨されますので、前もってひとまとめにしておくといざという時に早く避難できます。

緊急持ち出し物品

 主に以下の物品を前もって用意しておき、避難の際に速やかに持ち出せるようにしておいてください。

  • 飲料水
  • 非常食(透析食品を含む)
  • 現金や貴重品
  • 常備薬
  • 救急セット
  • お薬手帳(コピーで可)
  • 身体障害者手帳(コピーで可)
  • 特定疾病療養証(コピーで可)
  • 保険証
  • AM/FMラジオ
  • 懐中電灯
  • 生理用品(女性の場合)
  • 下着類
  • 衣料品

透析に関するカード等を必ず持参する

 透析患者さんの場合、上記の緊急持ち出し物品の他にも「透析患者カード」などの、医療機関や行政から配布されているカード類を持って避難することを推奨します。もちろん命の危機に瀕しているような場合であれば無理に持ち出すことは避けるべきですが、可能であれば持って避難してください。

 透析患者カードなどのカード類は、透析を受ける際に普段利用している医療機関以外でも透析治療を受けるために必要な物品です。透析患者カードには患者さんの基本的な情報や透析治療を受けるために必要な情報が記載されており、透析を利用できる別の医療機関でも普段と同水準の透析治療が受けられます。

血液透析中に災害が発生した場合

 場合によっては、自宅にいるときではなく医療機関で透析を受けている時に災害が発生するケースも考えられます。その場合、基本的に透析室の責任者や医療スタッフの指示に従って行動してください。

 特に、勝手に医療機関から離れて避難するといった行動は避けてください。医療機関は患者さんの避難状況を確認する義務があります。もし、スタッフが避難完了した旨を確認できない患者さんがいる場合「施設内に取り残されている」と考えて行動します。既に施設から離れていると状況を確認できるまでに時間がかかり、医療スタッフや他の患者さんに迷惑がかかります。

 ただし、災害の発生状況によっては医療スタッフの指示を受けられないケースも考えられます。その場合は、まず自分で透析回路からの離脱を行う必要があります。次に、施設内の緊急離脱セットを用いるので、一度は場所や使用方法についてスタッフに確認をとっておきましょう。そのうえで、あらかじめ決まっている避難場所・集合場所まで避難してください。

 また、エレベーターは使わずに階段を使用して移動してください(エレベーターは途中で止まる恐れがある)。また、透析中は履物を脱いでいますが、ガラス片などで怪我をするためきちんと履物を確保してください。

透析患者さんが避難場所で注意すべきこと

食事に関する注意点

エネルギーを確保する

 避難中は、エネルギー(熱量)を確保することを意識してください。ネルギーが不足すると、体内では筋肉の分解が行われます。この時、カリウムと尿毒素が多く発生するため、透析患者さんにとって危険な状態になります。そうならないために、十分なエネルギーを確保しましょう。

水分を適切に摂取する

 透析患者さんは水分の摂取制限が必要ですが、避難中は過度な水分制限は避けてください。避難中の角の水分制限は「エコノミークラス症候群」や「深部静脈血栓症」などの病気の原因となります。もちろん透析に響きますので飲み過ぎには注意が必要ですが、適度に水分補給をしてください。

タンパク質と塩分、カリウムは控えめにする

 透析患者さんは、「タンパク質」「塩分」「カリウム」の摂取制限が必要になります。これは、避難中でも同じことです。避難中には食事が支給されるのですが、おにぎりやパンなどが多く、タンパク質等を過剰に摂取する恐れがあります。前述の通り適度なエネルギー補給は必要ですが、適正に加減してください。

透析用の食事を3日分は用意しておく

 このように、避難中であるがゆえに透析患者さんは食事についていつも以上に注意しなければなりません。その心配を少しでも減らすために、避難する際には3日分の透析患者さん用の食料を持参するようにしてください。

薬についての注意点

 透析患者さんは、さまざまな薬を飲んでいます。そんな薬の中には「数日飲まない程度なら大した影響はないもの」と、一方で「1回飲まないだけですぐに体に影響が出るもの」もあります。特に後者については、避難中であっても欠かさずに飲み続けなければなりません。前もって、飲んでいる薬のどれが飲み続けないと危険で、どれが大丈夫なのか把握しておきましょう。

代替の施設を探す際の注意点

 災害にあったということは、最寄りの医療機関も災害の被害にあっているということになります。そのため、普段通院している医療機関では透析を受けられなかったり、そうでなくてもそこまでの交通手段を確保できないケースが考えられます。

 そのため、代わりの医療機関を探して、そこで透析を受ける必要があります。まず、避難場所で透析患者であることを自ら報告し、自治会の役員に相談してみてください。もしくは透析病院の情報を得られる場所を探して搬送してもらってください。

透析に関する資料は普段から持ち歩く

 緊急持ち出し物品を用意しておくと、いざ災害にあったときに慌てること無く速やかに持ち出しが可能です。しかし、それはあくまでも「自宅にいる時」のみ有効な手段です。災害は、自宅や医療機関だけでなく、外出先で見舞われる可能性があります。

 そんな場合でも透析を受けるのに最小限の影響で済ませるためには、透析に関する資料を普段から持ち歩いておくことをおすすめします。そうすれば医療機関が紹介状を用意できない状態にあっても、別の医療機関で安全に透析を受けることができます。

災害が起きてからでは手遅れ、日頃から災害時の意識を持っておく

 災害は何時発生するか予測が難しいとは言え、いざ災害が発生してから慌ててしまうと透析患者さんは命に関わるリスクが他の人よりも高くなります。災害時にも慌てず適切な行動をとり、透析への影響を最小限に抑えるためには日頃から意識を持つ必要があるのです。

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