腎臓の機能低下を放置すると、最終的に人工透析を不可欠とする生活を送らなければならなくなります。そうならないためには、日頃から腎臓への負担がかかる生活習慣を改める必要があります。
そんな習慣の一つが「喫煙」です。百害あって一利なしと言いますが、タバコと腎臓と聞くとそれほど深く関係しているイメージを持っていないのではないかと思います。しかし、透析が必要なほど腎機能が低下するのを早めてしまうことも事実なのです。
そこで、タバコと腎機能の悪化がどのように関係しているのかについて解説します。
コンテンツ
喫煙が腎臓に悪影響を及ぼす理由
ニコチンによる血圧上昇作用
まず第一に、タバコを吸うことによって「血圧が上昇する」ことが理由として挙げられます。タバコに含まれている「ニコチン」には、血管を収縮させる作用があります。血管が狭くなるということは当然ながら血圧も上昇します。また、血流量が減少するという弊害もあるのです。
血圧が上昇し、血流量が減少することによって腎臓に負担がかかります。腎機能が低下すると血液量が増加(水分を排出できなくなり、血液が増加する)し、血圧の上昇とともに心臓と腎臓に負担がかかるという悪循環を生み出します。
糖尿病の原因になる
第二に、喫煙は「糖尿病」の原因となることが理由として挙げられます。喫煙者は、非喫煙者と比較してインスリンの働きが悪くなることがわかっています。また、喫煙により交感神経が刺激されることにより血糖値が上昇します。血糖値を下げるインスリンの働きが弱まり血糖値が高い状態が続く、つまり糖尿病にかかりやすくなるということです。
慢性的な高血糖状態が続いてしまうと、全身のあらゆる血管にダメージが与えられてしまいます。これには腎臓の糸球体も含まれており、次第に腎機能を低下させていきます。これを「糖尿病性腎症」といい、人工透析を受けている患者さんの透析を受ける原因の第1位がこの糖尿病性腎症です。透析を避けたい人にとって、糖尿病は決して無視できない要因なのです。
脂質異常症の原因になる
第三に、喫煙は「脂質代謝」に対して悪影響を及ぼすことが理由として挙げられます。これにより「脂質異常症」を発症するリスクが高まります。脂質異常症とは、血液中の中性脂肪やコレステロールの量が多い状態のことをいい、病気が進行すると動脈硬化の原因になります。
なぜタバコを吸うことが脂質異常症の原因になるのかと言えば、ニコチンが中性脂肪を増やす原因となる「遊離脂肪酸」を増やすことにあります。また、高血糖な状態が続くとLDLコレステロールが酸化されやすい状態になることも原因の一つです。
喫煙とタンパク尿
タンパク尿と腎不全
腎機能が低下すると、本来は排出されないタンパク質が尿中に含まれてしまう「タンパク尿」を引き起こしてしまいます。そして、タンパク尿の程度が重い場合、その後の腎機能悪化の程度が強くなります。最終的に「腎不全」に陥り、人工透析か腎移植が必要となります。
高血圧と喫煙とタンパク尿
高血圧のある患者さんがタバコを吸うと、タンパク尿や微量アルブミン尿の頻度は2倍になるといわれています。また、高血圧自体が末期腎不全の危険因子であることもわかっています。
糖尿病と喫煙とタンパク尿
糖尿病のある患者さんがタバコを吸うと、タンパク尿およびアルブミン尿のリスクは2~3倍まで引き上げられるとわれています。また、糖尿病患者さんが喫煙すると、非喫煙の場合と比較して50%以上早く腎機能が失われるという報告があります。
慢性腎炎と喫煙とタンパク尿
慢性腎炎のある患者さんがタバコを吸うと、これもタンパク尿および微量アルブミン尿のリスクが高まることがわかっています。また、慢性腎炎のある患者さんが喫煙すると、非喫煙の場合と比較して約2倍のスピードで腎機能が低下するという報告があります。
禁煙の具体的な方法
腎臓病の進行を阻止するために、タバコを吸っている人は1日でも早くやめるべきです。要するに「禁煙」が必要になるのですが、タバコを吸わないと思っているだけではなかなか成功しません。
そこで、禁煙を成功させるための具体的な方法について紹介します。
環境を改善する
まずは、今までタバコを吸っていた環境そのものを改善することから始めましょう。環境を変えるといっても引っ越しが必要なのではなく、タバコに関係する環境をターゲットにして改善するということです。
最も一般的な方法は「タバコ」「ライター(タバコ用)」「灰皿」といった、喫煙に関するグッズを処分することです。禁煙を決意したのであれば、これはあるだけ邪魔になります。これらのグッズ以外にも、喫煙に深く関係する物品があれば、可能な限り処分してください。
生活パターンを改善する
周囲の環境を禁煙用に整えることに成功したら、次に手を出すべきは「生活パターン」です。生活の中で、喫煙に深く関係する、あるいは関係する恐れのあるものをピックアップし、喫煙につながらないように工夫します。
例えば「タバコの煙が充満していそうな場所・店舗」に近づかないことです。居酒屋やパチンコ店、喫煙所のようにタバコを吸う人が多い場所に近づくと、自分もタバコを吸いたくなってしまいます。その他にも「コーヒー・アルコールを控える」「タバコを購入できる場所に近づかない」など、タバコや喫煙に関係しそうな行動を控えてください。
喫煙の代わりとなる行動を実行する
次に実行すべきなのは「喫煙の代わりとなる行動」を実行することです。今まで生活の一部だったタバコをやめようと思っても、我慢しきれずに再喫煙に走ってしまう人も多いです。
そこで喫煙の代わりになる行動によって、タバコを吸いたいという衝動をごまかす事が必要になります。例えば口寂しさをごまかすためにガムや飴を食べる、運動でストレスを発散するといった行動が有効です。人によって有効な行動は異なりますので、何が有効なのか調べる必要があります。
禁煙補助薬を使用する
ここまでの方法は、比較的身近で簡単にできる方法です。さまざまな方法があるものですが、人によっては十分な効果が得られないケースもあります。そこで活用したいのが「禁煙補助薬」です。
大きく分けると「ニコチン製剤」「ニコチンを含まない薬」があります。その中でニコチンガムと、一部のニコチンパッチは医師の処方を受けなくても薬局で購入できます。できれば薬剤師または医師に相談して、適した禁煙補助薬を選んでください。
禁煙外来に通う
独力での禁煙に限界を感じたら「禁煙外来」を利用することをおすすめします。禁煙外来では専門家から禁煙のためのアドバイスを受けることができ、禁煙補助薬も処方してもらうことができます。
タバコは腎機能低下を加速させる、早めに禁煙を
このように、タバコを吸うことは腎機能低下を促すことになり、最終的に腎不全を患って人工透析が必要になる段階まで進んでしまうことが考えられます。透析を始めればほぼ確実に担当医からタバコをやめるように指示されますので、そうなる前の段階で禁煙を開始することをおすすめします。
禁煙すると言うだけなら簡単ですが、実際に禁煙を実行するとなると相当な苦労と挫折を味わうことになるでしょう。禁煙に失敗すれば腎機能を悪化させるのを止められません。タバコだけが腎機能を低下させるわけではありませんが、透析を回避するためにも禁煙を始めてください。