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慢性腎臓病になぜなるの?腎臓病を発症・悪化させる危険因子とは?

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透析を行っている患者さんは、減少することなく年々増加しています。2015年末では、約32万5千人の人が透析を行っています。患者数が増加している背景には、糖尿病の増加、高齢化、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の増加に伴い、糖尿病性腎症、腎硬化症の方が増加することで透析導入患者数も増加しています。

(日本透析医学会 統計調査委員会:図説 わが国の慢性透析療法の現況より)

 

糖尿病がある透析患者さんの数は、2015年末では約14万5千人。透析患者さんの約45%の人は糖尿病の既往があることになります。

健康診断の尿検査でたんぱくや糖で再検査となり不安な気持ちになったことがあるという方も多いのではないかと思います。糖尿病なんじゃないか、腎臓病になったら透析しないといけないんじゃないかなど、次の結果がでるまでいろいろなことを考えると思います。正しい知識を持つことで腎臓病の重症化予防や発症予防につなげることが出来るのです。
今回は、慢性腎臓病を発症や悪化させる危険因子を知っていただき、どのようにすることが発症や悪化させることを防ぐことができるのかをご説明していきたいと思います。

国民8人に1人は慢性腎臓病(CKD)?

慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease)とは、慢性糸球体腎炎や慢性間質性腎炎、腎硬化症、多発性のう胞腎、糖尿病性腎症など慢性的に持続する腎臓病のことをいいます。
わが国ではCKDの患者さんが推定1,330万人(12.9%)いるとされおり、国民の8人に1人はCKDの患者さんであることが明らかとなっています。そのため、近年CKDが注目されています。

慢性腎臓病(CKD)が注目される理由は?

CKDが注目される理由は2つあります。
1.CKDは進行して透析療法が必要になることが多い
2.CKDでは、脳卒中や心筋梗塞、狭心症などの心・血管疾患の発症リスクが高くなっています。しかし、CKDの段階に適した治療することにより、これらのリスクを大幅に低下させることができます。

慢性腎臓病(CKD)発症の危険因子とは?

CKDは、末期腎不全だけでなく心臓血管病(狭心症や心筋梗塞など)を起こす危険因子です。CKDの発症にも様々な危険因子が存在するということが明らかになっています。そのなかでも対処が可能なものと、対処ができないものとに分けることができます。

1.対処できないCKD危険因子

  • CKD家族歴
  • 心血管疾患の合併
  • 高齢
  • 男性
  • 片腎
  • 先天性異常

2.対処が可能なCKD危険因子

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脂質異常症
  • メタボリックシンドローム
  • 肥満
  • 喫煙
  • 腎臓に影響のある薬剤 ※とくに非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)
  • 膠原病
  • 尿路結石、感染症
  • 貧血、高リン血症、アシドーシスなど

高血圧だとなぜ腎臓に影響があるの?

血圧とは

心臓から血液を全身へ送り出す力を血圧といいます。正常の血圧は収縮期血圧120mmHg、拡張期血圧が70mmHgといわれています。血圧は、高すぎても低すぎてもいけません。
血圧が高いと、各臓器に血液が到着するときに正常の血圧の人に比べ、強い力で血管に血液が送り込まれることで血管が傷みます。血管を強い圧で圧迫することにより動脈硬化が進行すると考えられています。

高血圧が腎臓に与える影響

血圧が高いと腎臓へも強い力で血液が送られてきます。腎臓の血管も強い圧に耐え切れず、腎臓の構成組織が傷つき、腎臓の中にある毛細血管までも硬くなってしまいます。動脈硬化は、加齢によっても進行するため、加齢と高血圧によっておこる腎硬化症により透析を導入する患者さんが徐々に増加しています。

腎臓が血圧に与える影響

血圧が高いと腎臓の機能が低下します。腎臓の機能が低下すると余分な水分の排泄状態が悪くなると同時に塩分が排泄されず、身体の中の塩分濃度が上がることで血圧はさらに上昇します。そのため、腎臓の機能が低下するほど高血圧になる方が多くなります。

慢性腎臓病(CKD)での降圧目標値

年齢にもよりますが、一般的に140/90mmHg以上を高血圧と定義しています。高血圧がある場合の降圧目標は日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2009」で下記の表のように示されています。

 

診察室血圧

家庭血圧

若年者・中年者

130/85mmHg未満

125/80mmHg未満

高齢者

140/90mmHg未満

135/85mmHg未満

糖尿病・CKD患者

心筋梗塞後患者

130/80mmHg未満

125/75mmHg未満

脳血管障害患者

140/90mmHg未満

135/85mmHg未満

血圧が高くなるほど腎機能は低下します。腎機能が低下することで血圧が上昇します。そのため、十分な血圧コントロールが大切となります。
健康な人であれば高齢者であっても血圧の日内変動はほとんどありません。しかし、腎機能の低下により高血圧が認められる場合は、夜間に血圧が上昇したり、早朝から朝方に血圧が上昇してくることがわかっています。夜間や早朝の高血圧はCKDを悪化させる危険因子なので、起床1時間以内で朝食前の血圧、就寝前の血圧を測定し記録することが大切です。

高血圧の塩分制限

腎臓に原因のある高血圧の第一の原因は、塩分を過剰に摂取することです。腎機能が低下すると過剰に摂取してしまった塩分を尿に全て排出できず身体の中に溜まります。塩分が身体の中に溜まることでその濃度を薄めようと体に水が溜まり高血圧となります。塩分を制限することが腎臓病での高血圧の治療にはとても大切です。

糖尿病と腎臓病の関係とは?

糖尿病は、慢性腎臓病(CKD)対策の重要な課題の1つです。糖尿病性腎症は、糖尿病の三大合併症の1つであり、透析導入原因疾患1位だけでなく、心筋梗塞や脳卒中の重大な危険因子となっています。

糖尿病とは

糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病の2種類があります。1型糖尿病は、血糖を下げるインスリンが膵臓からまったく分泌されません。2型糖尿病は、インスリンの分泌が少ない遺伝的な要因に肥満や過食、運動不足といった後天性な要因で発病します。日本人の糖尿病の95%は遺伝性の要因が強い2型糖尿病と考えられています。全国の糖尿病の推定患者数は890万人以上(平成19年国民健康・栄養調査結果概要)とされています。

糖尿病性腎症で起こる腎臓の異常とは

糖尿病性腎症とは、糖尿病による高血糖状態が5~10年以上の長期間続いた患者さんに起こしやすく、腎臓の中にある糸球体という尿を作っている場所の内圧が高まり、腎機能の上昇が続いた後、腎機能が進行性に低下していきます。初期では、尿からわずかなタンパクが現れ、腎機能の低下と共に尿中のタンパクの量は増え、最終的に腎不全となります。

糖尿病性腎症の治療

糖尿病性腎症の治療は、第1に血糖コントロールです。腎症前期や早期腎症のうちに食事療法を中心に必要に応じてインスリン療法により厳しく血糖コントロール(HbA1c6.5%未満)に努めれば、慢性腎臓病(CKD)の発症を予防し、CKDの進行を食い止めることが可能であると言われています。第2には血圧管理、第3には腎症が進行しない食事療法(蛋白制限食)、第4は脂質管理、第5には貧血の是正などの治療が基本となります。

加齢で腎臓は悪くなるの?

腎臓に入った血液は、毛細血管が毛糸玉のようになった「糸球体」と呼ばれる場所で濾過されます。糸球体は、1個の腎臓に約100万個あり、24時間休むことなく血液を濾過し続けます。糸球体で血液が濾過されてできる濾液の量は、1日に約150L。1日でドラム缶いっぱいの量になります。腎臓が濾過できる量は、30代から加齢とともに低下し、80歳になると30代の4分の3から半分程度になると言われています。このような加齢による変化と比べて大きく腎機能が低下する場合には、疾患による低下が考えられます。
65歳以上の日本人では、男性の約30%、女性の約40%が慢性腎臓病(CKD)といわれており、加齢による腎機能の低下は身近な健康問題となっています。

腎硬化症とは?

腎臓は、高血圧の発症に関わる重要な臓器です。しかし、腎臓が高血圧の影響を直接受けやすい臓器でもあります。腎硬化症は、動脈硬化が腎臓の血管にもおよび、腎臓の血流が障害されやがて糸球体が硬くなり小さくなっていく病気で透析導入に至る原因の3位となっています。原因は、高血圧が無治療で長期間放置することが強く影響しています。しかし、血圧のコントロールを行うことで他の腎臓疾患に比べ進行のスピードが非常にゆっくりとなることも多くみられます。

その他に腎臓に影響を与えるものとは?

脂質異常症

血中のLDLコレステロール値が高いなどの脂質異常症は、一般的に動脈硬化を起こす原因であることは知られていると思います。脂質異常症は、糸球体に対して動脈硬化を起こし糸球体硬化症を促進すると言われています。CKD発症の危険性を高め、進行を早めることが明らかとなっています。

高尿酸血症(痛風)

尿酸は、身体から排出される老廃物の1つとして尿から排出されます。腎機能が低下すると排出量が低下するため高尿酸血症(血清尿酸値が7.0mg /dl以上)となります。
尿酸値が高くなると身体の中では尿酸の結晶化が進んでいきます。足の指の関節などに痛みを起こす痛風発作や尿が排泄される過程で結石になる尿路結石などはよく耳にされるかと思います。
高尿酸血症が続くと、尿酸の結晶が腎臓内に徐々に蓄積し腎臓の機能を低下させます。これを「痛風腎」といいます。腎機能が低下すると尿酸を身体から排出する量も低下するため、悪循環となり腎臓の機能がどんどん低下していき慢性の腎障害がおこる場合があります。近年、痛風腎によって透析導入となる患者さんが増えているので尿酸値のコントロールが重要となっています。
アルコール、肉類、砂糖入りソフトドリンク、果糖の摂取量が多いほど、痛風になりやすいことが示されているので摂取量を控えることが大切です。

メタボリックシンドローム

肥満症の増加に伴い、生活習慣病やメタボリックシンドローム、肥満に伴う腎障害がCKDの原因として注目を集めています。肥満症の人は、腎臓病の原因となりやすい糖尿病や高血圧を合併しやすいと言われています。肥満症の人は、インスリン抵抗性を生じ、インスリンの働きが悪くなり、インスリンがあるのに血糖が下がらないという特殊な状態が生まれ、高インスリン血症と呼ばれます。高インスリン血症は、高血圧や動脈硬化の原因になることが知られており、標準体重に近づけることが大切です。

喫煙

喫煙は、腎臓の血流を低下させたり、腎臓の血管を傷めるなど、腎臓に悪影響を及ぼします。タバコの煙を吸入することによる疾患のリスクは、肺がんなどの悪性腫瘍、動脈硬化進行による心筋梗塞や脳梗塞などの循環器疾患、糖尿病の発症など多岐におよび、高血圧や糖尿病を進展させたり、直接腎臓に作用したりして糸球体の硬化や尿細管機能の低下を起こし、CKDの発症・進行をもたらすと考えられています。米国で行われた、糖尿病を合併しない65歳以上の高血圧患者さんを対象とした研究では、喫煙本数が増えるにつれ、腎機能悪化のリスクが高まることが示されています。

腎毒性の薬剤

腎毒性のある薬剤は腎臓に負担がかかり、腎障害を促進させCKDの危険性を高めることが分かっているため注意が必要です。全く使用してはいけない訳ではなく、適正な量を使用することが大切です。

  • 非ステロイド性消炎鎮痛薬:痛み止めや解熱剤として使用されています。頻回に使用すると腎臓の血流量に影響を与えるため、連続して使用すると腎障害を起こしやすくなります。
  • 造影剤:造影剤は、CTスキャン、血管造影、尿路造影など様々な検査に使用されます。造影剤は血中に入ったあと、最終的に腎臓から排出されます。腎機能が低下している場合腎毒性が生じやすく、腎機能を増悪させる可能性があります。どうしても必要な場合造影剤を使用することもあります。
  • 抗生剤:抗生剤も種類によっては腎臓から排出されるものがありますが、使用量を調整することで腎障害を起こすことはありません。アミノ配合糖体系の抗生物質の使用は避けましょう。

腎臓は沈黙の臓器

慢性腎臓病(CKD)は腎臓の機能によってステージが5つに分類されています。それぞれのステージに合わせた治療を受けることが推奨されています。
しかし、CKDは腎臓の機能が30%以下になるまで無症状の事が多く、かなり進行した状態でもゆっくりと進行していくことで身体が慣れてしまい症状を感じにくくなっていることも多くあり、腎臓は沈黙の臓器といわれています。そのため、健診で蛋白尿や腎機能の指摘を受けても自覚症状がないために数年放置し、気づいた時には透析が必要不可欠な状態になっている方もまだまだ多くいらっしゃいます。

CKDは、決してまれな疾患ではありません。進行すると腎不全や心臓血管病を引き起こすという一方で適切な時期にCKDを発見することができたら十分治療しうる疾患なのです。かかりつけの病院や健康診断などで、尿検査と血液検査を受けCKDを早期発見することがとても大切です。

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