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透析患者さんの死因第2位の感染症。透析患者さんは、感染症にかかりやすいって本当?

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 透析患者さんには、さまざまな健康上のリスクが発生します。透析患者さんに起こりやすい合併症の一つに「感染症」が挙げられます。

 実は、透析患者さんの死亡率で2番めに多いのが、感染症によるものです。亡くなった透析患者さんの5人に1人が感染症による死亡であるとしたら、決して軽く見ることはできないでしょう。なぜ透析患者さんの多くが感染症を患ってしまうのか、その原因を理解すれば透析を受ける生活の中で注意できるポイントも見いだせるはずです。

 なぜ透析患者さんが感染症にかかりやすいのか、その理由とでき得る対処法について説明します。

透析患者さんの5人に1人は「感染症」が原因で亡くなっている

 日本透析医学会の2015年統計調査によると、透析治療を受けている人が亡くなった原因の第一位は「心不全」で、全体の26%に上ります。そして第二位となっているのは全体の22%で「感染症」です。「不明」「その他」を除けば第三位が悪性腫瘍で9.3%であることを考えると、透析患者さんの感染症による死亡率は心不全と並んで非常に高いことがわかります。なお、統計調査によると透析患者さんの死亡原因としての感染症の割合は、年々その数値を上昇させている傾向にあります。

透析患者さんが感染症にかかりやすい理由とは?

穿刺によるもの

 透析治療のうち「血液透析」の場合、シャントにより血流量が増加した腕の静脈に針を刺します。この時、周囲の皮膚に付着している細菌等が体内に入り込んでしまう可能性があります。

血液透析は、一般的に週3回のペースで行います。つまり2日に1回のペースで静脈に針を刺すことになりますので、それだけ穿刺による感染症発症のリスクは高いということになります。抗凝固薬を使用することによって出血しやすく、感染経路になりやすいことも感染症のリスクを高めてしまいます。

カテーテルによるもの

 透析治療のもう一つの分類が「腹膜透析」です。腹膜透析は腹部にカテーテルを留置し、そこから透析液のやりとりを行います。血液透析のように透析治療の度に穿刺することはありませんが、留置しているカテーテルが感染症の原因となってしまいます。

 腹部にカテーテルを留置しているということはつまり、腹腔内への通り道を残しているということになります。カテーテルの出口部の管理が疎かになっていると、そこから細菌が感染して感染症を引き起こしてしまいます。シャント同様、日頃のケアが重要なのです。

腎不全によるもの

 腎不全も、感染症のリスクを高めてしまいます。腎不全などの腎臓機能障害は、尿量を減少させてしまいます。その機能については透析治療で代替し、水分や老廃物などの不要な物質は体外に除去できますが、尿量が減少し、排尿の回数が減少すること自体が感染症のリスクを高めてしまいます。

 排尿することは、尿路の洗浄という機能も併せ持っています。腎臓機能が低下して尿が出なくなってしまうと、尿路の洗浄機能が十分に働かない状態になってしまいます。結果、大腸菌などの細菌が尿路をさかのぼり、感染症のリスクを高めてしまうのです。

免疫機能低下によるもの

 免疫とは細菌などの異物を排除する働きであるため、免疫機能が低下することで感染症を発症しやすくなってしまいます。透析治療を受けている患者さんは、食事制限によって栄養不足に陥っている可能性があります。また、尿毒素が体内に蓄積していることもあり、合わせて免疫機能が低下してしまいます。

 また、透析治療や腎機能低下による諸症状を原因として、ストレスを溜めていることも免疫力低下の原因になります。何がストレスの原因になっているかは人によって異なりますが、ストレスの原因を取り除かないと免疫力の回復も難しくなるでしょう。

透析患者さんが発症しやすい感染症は?

肺炎

 透析患者さんは肺炎や結核などの感染症にかかりやすいです。風邪やインフルエンザなどの病気を発症し、それが重症化して肺炎を起こすケースもあります。胸の鋭い痛みや息切れ、チアノーゼ(顔や唇が紫色になる)などの症状が現れます。

尿路感染症

 尿量が少なくなることで、尿路の感染症を発症しやすいとされています。具体的な病気は膀胱炎や腎炎などであり、下腹部の不快感や血尿といった症状を呈することがあります。

血管の感染症

 血液透析を選んでいる場合、血管からの細菌感染を引き起こしやすくなります。穿刺するシャント付近の血管に細菌が感染し、感染した部分が赤く腫れてしまいます。発熱を起こすこともあり、重症化すると高熱を起こすことがあるので注意が必要です。

腹膜炎

 腹膜透析を選んでいる場合、腹膜炎などのカテーテルに関係した感染症を引き起こす可能性が考えられます。カテーテル出口部からの感染や、カテーテル内を通じて感染する可能性が考えられます。

排出した透析液が濁っている場合には腹膜炎を起こしている可能性が高いです。重症化すると命に関わるケースもあり得ますので、早めに対処する必要があります。

透析患者さんの感染症の予防法について

体を清潔にする

 血液透析の穿刺部および腹膜透析のカテーテルからの細菌感染を防ぐためには、日頃から体の清潔さに十分な注意を向けることが必要です。血液透析患者さんはシャント付近を、腹膜透析患者さんはカテーテル出口部について特に清潔さを維持することを心がけてください。

 体の清潔さを保つ方法としては「入浴」が一般的な方法です。ただし、透析患者さんは入浴時に注意すべきポイントがあります。血液透析後の入浴を避けることと、腹膜透析では「オープン法」と「クローズド法」を理解して使い分けることが必要になります。

怪我に注意する

 細菌感染を防ぐため、怪我には今まで以上に注意が必要になります。怪我をした箇所からの細菌感染だけでなく、血液透析患者さんの場合はシャント部の出血量の多さというリスクを抱えることになります。シャント部を中心に、外出や運動時には十分な注意を払ってください。

 また、万が一怪我をしてしまった場合には速やかに消毒と止血を行い、細菌感染と失血のリスクを抑える必要があります。止血や消毒に必要な道具はすぐに取り出せるところに保管しておきましょう。

生活習慣を整え、十分な休養をとる

 感染症のリスクを抑えるために、生活習慣を整えてください。毎日、三食きちんと食べるなど、生活のリズムを整えることで不規則な生活による免疫力の低下を防ぐことができます。人によっては仕事などの都合である程度不規則なリズムになることは避けられないかもしれませんが、可能な部分だけでも生活態度を改めてください。

 また、ストレスを溜め込まないために十分な休養をとることも重要なポイントです。特に睡眠は休養の中でも特に重要な要素であり、もし睡眠を阻害する症状が現れている場合は早めに対処して十分な睡眠をとれるようにしましょう。

栄養をきちんと摂取する

 免疫力を高めるため、食事によって十分な栄養を摂取することが必要になります。透析患者さんは食事制限が厳しいため、栄養を摂取することに対して消極的になってしまうことが考えられます。

確かにカリウムやリンなどの栄養については制限が必要ですが、警戒するあまり栄養全体の水準を下げてしまうことは避けなければなりません。医師や栄養士の指示に基づいた食事療法を遵守することで、健康的な生活のための栄養摂取を継続してください。

各種予防接種を受ける

 感染症の予防のため、各種予防接種を積極的に受けることは有効な手段です。インフルエンザや肺炎など、感染リスクの高い感染症については前もって予防接種を受けておくことをおすすめします。

透析治療を受けている患者さんからよくある質問として「透析治療を受けているが、予防接種を受けても大丈夫なのか?」という内容があります。確かに予防接種は注射であり、透析治療によってその効果が薄まるという印象を受けるのも仕方がありません。ですが透析治療によって予防接種の効果が薄まるということはなく、安心して予防接種を受けていただくことができます。

 もし不安な場合は「透析治療を受けているが大丈夫か?」ということを担当医に相談してみてください。なお、予防接種は効果が発揮されるまでに時間がかかります。インフルエンザのように感染リスクが高まる時期がある、つまり流行しやすい時期がある場合には主治医に相談して、本格的に流行する時期に余裕をもって予防接種を受けてください。

帰宅時のうがい・手洗いを徹底する

 一般的によく知られている感染症予防の方法ですが、外出した際には帰宅時のうがいと手洗いを徹底してください。これだけで感染症の感染リスクは大幅に抑えられます。

 うがいは感染する確率を40%も低下させるという報告もありますので、面倒がらずに実施してください。ただし、うがいも透析治療において制限される水分摂取の原因となるので注意してください。

 手洗いは石鹸を使い、こまめに洗ってください。調理前やトイレの後などのタイミングには石鹸を使って洗い、流す行程を2回実施する「2度手洗い」がおすすめです。手洗い後にハンドアルコールを使って殺菌するのも有効な手段となります。ただし、手洗いをする時には怪我をしないためにも爪をきちんと切った状態にしておきましょう。

マスクを着用する

 感染症予防の基本的な方法の一つが、マスクを着用することです。マスクは安価で購入できるものが多いので、経済的な負担はそこまで大きくはならないでしょう。

 特に空気が乾燥する季節に人が集まるところへ足を運ぶ際には必ずマスクを着用してお出かけしてください。血液透析を受ける透析患者さんの場合は2日に1回のペースで病院に行きますので、風邪やインフルエンザが流行する季節の通院にはマスクが欠かせません。

衛生用品は切らさず、取り出しやすいところで保管

 石鹸やマスクなど、感染症予防に必要な衛生用品は切らさないように注意してください。また、使用中の石鹸を使い切ったときや外出時にすぐにマスクを取り出せるように、わかりやすく、取り出しやすいところで衛生用品を保管しておきましょう。

室内環境を整える

 感染症予防のためには、室内環境を整えることも重要なポイントになります。寒い季節は窓を締め切って部屋を温めたいところですが、もしウイルスに感染していると咳やくしゃみで空気中にウイルスが飛び散り、同居している家族にも感染するリスクを高めてしまいます。こまめに換気し、部屋の空気中のウイルスを外に逃がしてしまいましょう。

 乾燥する季節は室内の湿度を保つことも必要になります。加湿器を用いる場合にはこまめに清掃を行い、雑菌やカビが加湿器に繁殖することを避けてください。加湿器を使わない場合は濡れタオルを室内にぶら下げることで加湿できますので試してみてください。

異常を感じたら早めに医療機関を受診する

 予防法を徹底しても、細菌感染を完全に避けることは不可能です。健康的な人と比較して細菌感染のリスクが高い透析患者さんは、感染後の対策についても十分考慮する必要があります。

 一言で言えば「早めに病院へ行く」ことが重要です。腎臓を悪くするまではちょっと休めば回復したような感染症でも、重症化して命に関わる状態に発展する可能性も十分に考えられます。逆に言えば、命にかかわるような感染症でも感染から早い時期に適切な治療を受ければ大事に至らずに済むことでしょう。

 特に透析治療をこれから受ける人や治療開始から間も無い人は、今まで以上に感染症のリスクを考慮して早めの医療機関受診を心がけてください。「たかが風邪」と思っても、前述の透析患者さんの感染症による死亡率の高さを考えれば、「たかが」で済ませて良いものではないことが理解できるはずです。

感染症予防を徹底し、健康的な生活を損なわないようにする

 透析治療を受けている人は、透析治療の性質と免疫力の低下などを理由として感染症を患いやすくなっています。しかし、必ずしも感染症になるというわけではなく、感染しても早期に治療できれば大事に至らないことが多いです。ですが一方で透析患者さんの死亡原因として高い割合を持っていることも無視できません。

 重要なことは「感染症に対する意識」を、今までとは変えることです。透析治療を受ける状況では感染症になりやすく、重症化のリスクが高くなることを理解しておけば、感染及び重症化のリスクは抑えられるはずです。特に感染症が流行しやすい時期には細心の注意を払い、感染症予防と発症時の早期対処を徹底してください。

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