基礎知識

運動した方がいい?!慢性腎臓病患者さんにおすすめの運動療法とは?

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 以前は、慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)と診断されると腎臓の機能を悪化させないために安静にすることが原則でした。
 しかし近年では、慢性腎臓病の患者さんや透析患者さんにも適度な運動をすることが推奨されています。今回は、慢性腎臓病の患者さんに適した運動療法についてお話していきます。

生活習慣によっては腎臓病を悪化する?

 腎臓病の進行を防ぐには薬物療法や食事療法が大切ですが、普段の生活での活動の状況が大きく影響することがあります。つまり、薬物療法や食事療法でうまく進行が抑えられていても、過労や働き過ぎることにより悪化してしまう場合もよくあります。そのため、腎臓病を悪化させないような生活習慣を身につけることが大切です。

腎臓病になったら安静が必要?

 腎臓病で入院したり、自宅で安静にしたりする必要があるのは、急性期や一部の重症患者さんだけです。ほとんどの患者さんは、定期的に病院で受診しながら会社に行ったり、学校へ行ったりと、普通の生活を続けて差し支えありません。病状しだいでは軽いスポーツも差し支えありません。たんぱく尿や血尿があっても、程度が軽く腎機能が正常の患者さんでは、あまりじっとしてばかりいないで、むしろ適度に身体を動かした方が体力維持にも精神的にも良い影響が出るものです。どの程度までの生活活動が許されるのかは各患者さんの腎臓病の進行度合いによって違います。どのような患者さんがどの程度までの生活活動を守ればよいかは、あとに述べていきます。
 しかし急性期や重症患者さんでは、慢性化を防いだり、病状を悪化・進行させないために、しっかりと安静をとる必要があります。また、慢性期の患者さんでも、決して無理をしてはいけません。過労は、絶対に避けて、疲れが翌日に残らないようにすることが大切です。

慢性腎臓病(CKD)における運動療法

 これまでは、腎疾患の患者さんに対して、運動負荷による腎機能への悪化を心配して、運動を制限する傾向にありました。たしかにCKDの患者さんには過労を避け、十分な睡眠や休養は重要です。しかし、最近では適度な有酸素運動では腎機能低下に悪影響を与えない、あるいは蛋白尿減少や血圧低下に効果がみられたという、運動に肯定的な報告が多く出てきています。
慢性腎臓病(CKD)の予後を悪化させる因子である高血圧や低血圧、心不全、血管障害、糖尿病、脂質異常、低栄養などへの運動療法の効果は確立しています。その一方で安静過多や身体的不活発(sedentary lifestyle)は有益でも無害でもなく、高血圧や低血圧、心不全などの病態を悪化させ、CKDにおいても生命予後や生活の質(QOL)を悪化させることが明らかになっています。
 透析患者さんにおいても、国際的な観察研究で、週1回以上の運動習慣のある患者さんは、運動しない患者さんに比べて、死亡リスクが3割低いことが報告されています。
 腎疾患における運動療法は、従来は消極的あるいは否定的に考えられてきました。しかし、CKD患者さんに対して一定の有酸素運動を定期的に長期間行った報告では、身体活動能であるQOLが向上し、蛋白異化(タンパク質を生体が分解して代謝すること)が抑制され、体重減少や低栄養状態が改善されたという報告もあります。こういったことから、CKDに関して運動療法は、合併症予防のみならず生命予後やQOLに改善につながるといえます。

慢性腎臓病のステージや病状に合わせた運動療法とは?

慢性腎臓病(CKD)のステージ分類

 「慢性腎臓病の進行度は、GFRの数値によって6つのステージに分けられます。各ステージや症状に合わせて適切な運動療法を定期的に行うことが大切です。オーバーワークになるとかえって腎臓に負担をかけ、症状を悪化する恐れがあります。
 運動療法を始めるときは、主治医に必ず相談するようにしてください。


https://www.icy.or.jp/harada-hospital/outpatient/special/ckd/

慢性腎臓病の生活指導基準

 腎臓病の進行程度や病状に当てはめ、下記(表1)のような日常生活区の基準が設定されています。

病期

たんぱく尿1g/日未満

たんぱく尿1g/日以上

高血圧(-)

高血圧(+)

高血圧(-)

高血圧(+)

腎機能正常

E

E

E

D

腎機能軽度低下

(Ccr71~90ml/分)

E

D

D

C

腎機能中等度低下

(Ccr51~70ml/分)

D

D

D

C

腎機能高度低下

(Ccr31~50ml/分)

D

C

C

C

腎不全期

(Ccr11~30ml/分)

C

C

C

B

尿毒症期

(Ccr10ml/分~透析前)

B

B

B

B

成人の生活指導区分

 日本腎臓学会のガイドライン(1997年)による、日常生活の具体的な内容を盛り込んだ5段階の生活指導区分があります。

指導区分

通勤・通学

勤務内容

家事

学生生活

家庭・余暇活動

A

安静

(自宅・入院)

不可

勤務不可

(要休養)

家事不可

不可

不可

B

高度制限

30分程度

(短時間)

(できれば車)

軽作業

勤務時間制限

残業、出張、夜勤不可

(勤務内容による)

軽い家事

(3時間程度)

買い物

(30分程度)

教室の学習授業のみ

体育は制限

部活動は制限

ごく軽い運動は可

散歩

ラジオ体操程度

(3~4メッツ以下)

C

中等度制限

1時間程度

一般事務

一般作業や機械操作では深夜、時間外勤務、出張は避ける

専業主婦

育児も可

通常の学生生活

軽い体育は可

文化的な部活は可

速足散歩

自転車

(4~5メッツ以下)

D

軽度制限

2時間程度

肉体労働は制限

それ以外は普通勤務

残業、出張可

通常の仕事

軽いパート勤務

通常の学生生活

一般的な体育は可

体育系部活は制限

軽いジョギング

卓球

テニス

(5~6メッツ以下)

E

普通生活

制限なし

普通勤務

制限なし

通常の家事

パート勤務

通常の学生生活

制限なし

水泳、登山

スキー

エアロビクス

メッツ表(身体・生活活動、運動の強度)

1メッツ

静かに座ってテレビ・音楽鑑賞、車に乗る

2メッツ

入浴、選択、調理、ぶらぶら歩き、ボウリング、ヨガ、ストレッチ

3メッツ

掃除、普通歩き、ゲートボール、グラウンドゴルフ

4メッツ

庭仕事、少し早く歩く、日本舞踊、ラジオ体操、水中ウォーキング

5メッツ

農作業、早歩き、卓球、ダンス、ゴルフ

6メッツ

ジョギング、水泳、バレーボール

7メッツ

登山、階段を連続して昇る、サッカー、バスケットボール

8メッツ

ランニング(150m/分)、ハンドボール、競泳、縄跳び、エアロビクス(激しい)

9メッツ

ランニング(170m/分)、階段を早く昇る、サイクリング(20㎞/時間)

10メッツ

ランニング(200m/分)、マラソン、柔道、相撲、ボクシング

慢性腎臓病の患者さんにとって適した運動とは?

 各個人にとっての最大強度の40~60%の運動を30分間行うと、運動直後では腎血流量や糸球体濾過量などの腎機能は低下をしめします。しかし、その後休んでいるとすぐに元に戻ります。
 運動の強さの感じ方は、各個人の基礎体力によりそれぞれ違います。日頃、何も運動をしていない人が、運動会で少し走っただけでも大変な思いをするのに対して、日頃からトレーニングしている運動選手では運動会で走ることは準備運動程度のことだったりします。各個人にとっての運動の強さの目安は、1分間当たりの脈拍数でも評価することが出来ます。
 これから運動を始めるという方は、軽い運動から毎日少しずつ行うようにしてください。いきなり激しい運動をすると、腎臓ばかりでなく、関節の障害や腰痛につながります。極端な場合、ジョギングを始めた高齢の方がジョギング中に倒れ亡くなってしまうこともあるので注意が必要です。
 軽めのストレッチなどから初めて、身体を動かすことに慣れてきたら徐々に運動量を上げていきましょう。腎臓病に悪影響をださないよう、1回の運動の強さは最大時の40%程度で20分ぐらいにしておくのが適当です。続けて運動を行う場合は、15以上座って休憩をするようにして下さい。

運動の強さの目安と脈拍

強度の

割合

強度の感じ方

1分あたりの脈拍数

60歳代

50歳代

40歳代

30歳代

20歳代

100%

最高にきつい

 身体全体が苦しい

155

165

175

185

190

90%

非常にきつい

 無理、100%と差がないと感じる

 若干言葉が出る、息がつまる

145

155

165

170

175

80%

きつい

 続かない、やめたい、喉が渇く、

 がんばるのみ

135

145

150

160

165

70%

ややきつい

 どこまで続くか不安、緊張、

汗びっしょり

125

135

140

145

150

60%

やや楽である

 いつまでも続く、充実感、汗が

出る

120

125

130

135

135

50%

楽である

 汗が出るか出ないか、フォームが

 気になる、ものたりない

110

110

115

120

125

40%

非常に楽である

 楽しく気持ちよいが、まるで物足りない

100

100

105

110

110

30%

最高に楽である

 じっとしているより動いた方が 

 楽

90

90

95

95

95

20%

座っているのと同じ

 安静

80

80

75

75

 

運動する前に注意すること

 慢性腎臓病(CKD)の患者さんは、心臓病などに疾患を持っていたり、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を合併していたりする場合があります。合併している疾患や状態によっては、運動療法を制限する必要があり、場合によっては運動療法が禁忌になることもあります。運動を始める前に、どの程度の運動が可能か医師に相談してから始めるようにしましょう。

慢性腎臓病(CKD)患者さんに推奨されている運動

頻度
 ・有酸素運動:速足でのウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳、エアロバイクなど
  3~5日/週
 ・レジスタンス運動:筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動
           スクワットや腹筋、腕立て伏せなどの筋力トレーニング
  2~3回/週

https://jinentai.com/ckd/tips/5_5

時間
 ・有酸素運動:持続的な有酸素運動で20~60分/日または、3~5分の間欠的運動で計20~60分/日
 ・レジスタンス運動:10~15回反復で1セットを1~3セット。
 ・柔軟体操:健常成人と同様の内容

種類
 ウォーキング、サイクリング、水泳のような有酸素運動
 レジスタンス運動のためには、マシーンあるいはフリーウエイトを使用する

運動を無理なく続けるには?

 最初から長時間がんばると、辛く感じたり、疲れたりするため続かなくなってしまいます。「1日に10分だけいつもより歩く」など普段の生活に少しずつ運動を取り入れていきましょう。

日常生活に運動を取り入れる工夫

 ・いつもより少し遠回りして歩く
 ・エレベーターやエスカレーターはなるべく使わず階段を使用する
 ・昼食を外食にする場合は、遠くの店に歩いていく
 ・バス停や駅を1つ手前で降りて歩く
 ・高層ビルなら行先の階より2~3階手前で降りて階段で上がる
 ・休日は、買い物ついでにウインドウショッピングをする

運動を長続きさせるには

 ・歩数計を付けて毎日の記録をつける
 ・景色の良い所を散歩する
 ・音楽を聴きながら散歩する
 ・一緒に運動する仲間を作る
 ・服装やファッションをいつもより派手にするなどで気持ちに変化をつける
 ・栄養や睡眠を十分にとる

運動するときに注意することは

 ・他の人と話しながら続ける強さの運動で、運動中や終了後に息苦しさや痛みを感じないようにする
 ・最初から頑張り好きないで自分の体調に合わせてマイペースに運動する
 ・運動も週休2日程度にする
 ・体調の悪い時は、無理をせずに休むようにする
 ・頭痛、胸痛、冷や汗、脱力感などがあれば、直ちに運動をやめて主治医に相談する
 ・運動中や運動後には、水分補給を忘れず行う

運動をすることによる効果とは?

 適度な運動を行っていても腎機能には悪影響を及ばさずに運動耐容能(その人がどれくらいまでの運動に耐えられるかの限界)や生活の質(QOL)の向上、糖・脂質代謝の改善などのメリットをもたらす可能性があります。そのため、活動を過度に制限すべきではないとされています。長期的な運動が腎保護作用(腎機能低下予防)や糖尿病性腎症の悪化を防止するという報告もされています。
 CKDステージ3~5の患者さんが運動療法を行うと、死亡率が低下するばかりでなく、透析や腎移植などの腎代替療法への移行を遅らせることが出来るという報告もあります。
 患者さんによって病気の進行や病状は、さまざまなので医師に相談してから無理なく運動を続ける習慣を身につけていきましょう。

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