透析原因・

糖尿病患者さんに増加中!糖尿病性腎症とは?

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 予備軍も含め、多くの人が悩まされている糖尿病は、さまざまな合併症のリスクを抱える病気です。どの合併症も健康を大きく損なうことになるのですが、そんな糖尿病の合併症の一つに「糖尿病性腎症」という病気があることはご存知でしょうか?

 病名から考えて、腎臓が深く関わっていることはすぐに理解できると思います。しかし、なぜ糖尿病の進行により腎臓の病気を合併するリスクが有るのかを即座に判断することは難しいでしょう。

 そこで、なぜ糖尿病によって腎臓に障害が生じるのか、どのような病気なのかについて説明していきます。

糖尿病性腎症とは?

 糖尿病性腎症とは、糖尿病の合併症の一つです。2014年のデータによれば、すべての透析患者さんのうち40%以上の人が、糖尿病性腎症を原因として透析治療を受けているという状況です。他の原因疾患が割合として十数%しかないため、圧倒的に多い割合の人が糖尿病性腎症によって透析治療を余儀なくされていることがわかります。

 糖尿病の患者数が増加するに従って、糖尿病性腎症の患者数も増加しています。糖尿病患者のうち30~40%の人が糖尿病性腎症を患っているとされており、糖尿病を発症してから10~15年経過してから糖尿病性腎症を患うケースが多いとされています。

糖尿病とは?

 糖尿病とは、血糖(血液中のブドウ糖)の濃度が上昇する病気です。血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の分泌もしくは働きが低下することで、高血糖の状態が続く病気です。糖尿病全体の約9割が生活習慣等を原因とする「2型糖尿病」です。

糖尿病を原因として透析治療を受けなければならないメカニズム

 なぜ、糖尿病が進行することで糖尿病性腎症を発症するのかについて説明します。

 前述の通り、糖尿病とはインスリンの作用・分泌不足により血糖値が高い状態が継続する病気です。つまり糖尿病患者産の血糖値は日頃から高い状態が続いているということになります。

 血糖値が高い状態が続くと「動脈硬化」が進行してしまい、血管が脆くなってしまいます。糖尿病による動脈硬化は全身どこの血管で起きてもおかしくないため、腎臓の「糸球体」という毛細血管の塊においても動脈硬化が進行してしまいます。その結果、糸球体の血管が壊れたり破れたりしてしまい、腎臓の機能を低下させてしまうのです。

糖尿病の主な合併症

糖尿病性神経障害

 高血糖状態の継続により、神経の働きが阻害されてしまいます。末梢神経障害により足の冷えやしびれといった症状を呈します。また、足の感覚が低下することで傷を見逃してしまい、潰瘍から壊疽を引き起こすケースも珍しくありません。自律神経が障害を受けると、便秘や排尿障害、立ちくらみや勃起障害といった症状を引き起こします。

糖尿病性網膜症

 高血糖の状態が続くことで、網膜の毛細血管にも障害が発生します。糖尿病性網膜症が進行すると最終的に失明の原因になることも考えられます。自覚症状が乏しく、定期的な眼底検査を受けることをおすすめします。

 糖尿病性神経障害と糖尿病性網膜症、それに糖尿病性腎症を合わせた3つの合併症は「糖尿病の三大合併症」と呼ばれています。

心筋梗塞・脳梗塞

 糖尿病では高血糖状態が続き、動脈硬化が進行してしまいます。これにより心筋梗塞や脳梗塞といった命にかかわるような病気を発症しやすくなります。

歯周病

 糖尿病が進行すると、感染症にかかりやすくなります。また、歯周病菌を原因とする歯周病も、糖尿病によりそのリスクを高めることになります。歯周病については、歯茎の血管が傷つくことで進行しやすいとされています。

糖尿病性腎症の病期分類

 糖尿病性腎症は、「アルブミン値」および「尿タンパク値」によって第1期~第3期に分類されます。また、腎機能・GFR(eGFR)の数値によって第4期に分類され、透析治療を行う第5期の合計5つの病期に分類されています。病期によって有効な治療法が異なります。

第1期

 糖尿病性腎症の初期段階であり、「腎症前期」とも言います。尿タンパク値あるいはアルブミン値が30未満の正常値であり、腎機能(ml/分/1.73m2)は30以上です。症状としては軽い状況であり、治療法も通常の血糖コントロールで十分なことが多いです。

 この時期の食事基準は、糖尿病職を基本とした血糖コントロールに努めることになります。ただし食塩やカリウム、タンパク質の摂取制限は規定されていませんが、高タンパクな食生活は好ましくないとされています。

第2期

 早期腎症期であり、尿には微量のアルブミンが含まれています(アルブミン値30~299mg/gCr)。腎機能は第1期と同じく30以上であるとされています。第1期と比較すると厳格な血糖コントロールが必要であり、この時期には降圧治療も必要とされています。また、第1期および第2期までははっきりとした自覚症状が出にくい時期であり、尿検査を受けないと病気の発見が困難な状態です。

 食事基準は、第1期と同程度のエネルギー量で良いとされています。この時点では食塩やカリウムの摂取制限は規定されていませんが、タンパク質については制限が開始されます。

第3期

 顕性腎症期であり、尿には相当量のアルブミンが含まれている状態です(アルブミン値300以上)。また、持続性タンパク尿が確認されます(尿タンパク値0.5g/gCr以上)。腎機能はこの時点ではまだ30以上を確認します。厳格な血糖コントロールと降圧治療に加えて、タンパク質の制限が追加される時期です。

 食事基準は、第2期よりも厳しいタンパク質制限が規定されています。食塩も1日あたり7~8gの基準が設けられており、場合によってはカリウムの軽度制限がスタートします。さらに、むくみや心不全の有無などの基準により、水分の摂取制限がスタートする時期でもあります。

 この病期まで発展すると、むくみや息切れなどの自覚症状を呈するようになります。主な自覚症状は以下のとおりです。

  • むくみ
  • 息切れ
  • 食欲不振
  • 満腹感
  • 胸苦しさ

第4期

 この時期になると腎臓機能が低下しています(腎不全期)。アルブミン値および尿タンパク値は問われませんが、腎機能は30ml/分/1.73m2未満まで低下しています。降圧治療と低タンパク食に加えて、透析治療が導入される時期となります。

 タンパク質の制限だけでなく、食塩とカリウムの摂取制限も厳しくなります。食塩は1日5~7g、カリウムは1日1.5gの摂取制限が規定されています。

第5期

 透析療法期です。この時期の食事基準は透析治療患者の食事療法に準じます。第4期および第5期に感じる主な自覚症状は以下のとおりです。

  • 疲労感
  • 吐き気
  • 顔色の悪さ
  • 筋肉の強張り
  • つりやすい
  • 骨や筋肉の痛み
  • 手のしびれや痛み
  • 発熱
  • 腹痛

糖尿病性腎症の治療

 糖尿病性腎症の治療は、血糖値の管理とそのための食事療法および運動療法が基本となります。

食事療法

 糖尿病の治療の基本は「食事療法」です。食事による血糖管理のためのエネルギー制限に加えて、糖尿病性腎症においてはタンパク質と塩分の摂取についても制限されます。患者さんによっては、必要に応じてリンやカリウムの摂取制限も課せられます。

 制限する程度については病期の進行状況により異なります。摂取制限があるからと過剰に栄養摂取を制限すれば、それにより体調を崩してしまうリスクが考えられます。食事療法の実施は自己判断で行うのではなく、管理栄養士の継続的な指導により行うことが望まれます。

運動療法

 糖尿病性腎症の治療において食事療法と同様に重要視されるのが「運動療法」です。ただし、糖尿病性腎症の治療における運動は減量を目的とするものではなく、筋肉量の維持と血糖コントロールを主な目的としている点に注意が必要です。

 また、糖尿病性腎症では腎臓機能が低下している可能性があり、患者さんによっては運動量を制限されるケースもあります。眼底出血がある場合は運動が禁止されるケースも有り、主治医の指示に従って運動を行う、あるいは制限する必要があります。

血糖値のコントロール

 糖尿病性腎症の治療において、血糖値をコントロールすることは極めて重要なポイントになります。特に糖尿病や糖尿病性腎症においては「HbA1c」や「GA」という数値を重視します。

 糖尿病治療においては、軽度な場合は食事療法と運動療法によって血糖値をコントロールします。しかし血糖値が高い場合はこれらの治療法だけでは十分に血糖値を下げることが難しいため、経口の血糖降下薬やインスリン注射によって血糖値を下げる薬物療法を併用します。腎機能が低いと使用できない経口血糖降下薬もありますが、昨今は血糖降下薬の種類が増えているので十分に対応可能です。

HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)

 これは「ヘモグロビンA1c」または単純に「A1c」と呼ばれる数値であり、簡単に言えば血液検査の直近1~2ヶ月の血糖値の平均を示す数値となります(ヘモグロビンの寿命が約120日であり、血糖と結びついたヘモグロビンの数値を見ることで1~2ヶ月分の血糖の状態を見ることができる)。一般的にはこの数値が7.0未満、理想としては6.0未満になるようにコントロールします。

GA(グリコアルブミン)

 これは「グリコアルブミン」と呼ばれている数値です。HbA1cが血糖とヘモグロビンの結合したものであるのに対して、GAはタンパク質の一種であるアルブミンが血糖と結合した物質です。GAの数値は直近の1ヶ月間、中でも直近2週間の血糖値の平均値を知ることができる数値として血糖コントロールにおいて利用されています。数値目標は20.0未満ですが、心血管イベントの既往歴があり、低血糖傾向のある患者さんの場合は24.0未満が暫定的な目標値となります(糖尿病ではない人の場合は16.0未満)。

HbA1cとGAの特性と利用する場面の違い

 HbA1cとGAは、それぞれ血糖値の指標となる期間が大きく異なります。その特性上、HbA1cは長期の血糖値の指標として、治療開始から安定した糖尿病患者さんの診断によく用いられています。一方でGAは比較的短期の指標として、治療開始時期や治療法の変更時にその効果を確認するために用いられています。血糖値の変動が激しい場合や厳密な血糖コントロールを必要とする場合、これらを併用することが望ましいとされています。

血圧のコントロール

 糖尿病性腎症の治療においては血圧を管理することも重要です。一般的な降圧目標は130/80mmHg未満ですが、高齢者の場合は高めの降圧目標値が設定されることが多いです。糖尿病治療において血圧管理が重要な理由は、大きく分けて2つあります。

 第一に「細小血管障害の進行を抑える」ことです。血糖値が高い状態が続くと細い血管が傷つきやすくなります。糖尿病性腎症では最初期は高血糖の影響が大きいのですが、病気が進行するに従って高血圧の影響が割合として大きくなります。なので、腎症の進行を遅らせるために血圧の管理が必要になるのです。

 第二に「大血管障害を予防する」ことです。糖尿病により太くて大きな血管の動脈硬化が進行すると、それを原因として心筋梗塞や閉塞性動脈硬化症を引き起こします。高血糖および高血圧のどちらも動脈硬化を進行させてしまいますが、その両方を持っていると大血管障害のリスクをさらに高めてしまいます。動脈硬化の進行を阻止するため、血糖管理と共に血圧管理が重要になるのです。

血清脂質値のコントロール

 血清脂質値のコントロールも重要です。血清脂質値は、その代表的なデータとして「LDLコレステロール」を用いることが多いです。一般的にこの数値を120mg/dl未満に落とし、場合によっては100mg/dlまで落とすことを目標にします。治療においては高脂血症治療薬が使用されます。

糖尿病性腎症のまとめ

 予備軍を含めた糖尿病のリスクを抱える人の多さ、そして透析患者さんが透析治療を開始した最大の原因となっている糖尿病性腎症は、決して他人事の病気ではないことが理解できたと思います。糖尿病は他にもさまざまな合併症のリスクが考えられますが、糖尿病性腎症は進行に従って治療が難しくなり、治療については透析腎移植という選択肢になります。

 透析治療の原因疾患として、4割以上という高い割合が糖尿病性腎症という調査結果となっています。人工透析や腎移植を回避したいのであれば、糖尿病の進行に注意しなければなりません。早期発見できれば難易度の低い治療方法で改善できるケースが多く、透析治療や腎移植を回避するためには定期的な検査によって病気を発見することが必要不可欠であると言えます。

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